第3話

 わたしぐらい立派なレディになると、野宿ぐらいでは驚かないし、むしろお手伝いなど朝飯前なのである。


「鍋の扱いなら任せて!」

「おお?! お嬢ちゃん料理が出来るのか!」

「だてに毎日鍋の底をかき混ぜてないわ!」

『ただし、煮ているのは薬草であって料理ではない』


 おじさま自ら捕ってきたうさぎと、わたし特製のスープ。本日のディナーはなかなか豪勢だ。

 特にスープに関しては長旅だというおじさまの疲れがとれるように、材料は惜しまなかった。我ながら感心する出来映えである。

 そのおかげか一口飲んだ瞬間、おじさまはごろり、とその場に転がった。


「やっぱり疲れをとるためには、早めの就寝ね! 美容にもいいらしいし」

『いやぁ……あれ気絶してるんじゃない?

 むしろ死んでない? 大丈夫?』


 効果は速効性なので、わたしは肉を二等分にしてお先に頂きながら、火の番をする。

 開けた街道沿いに場所を取ったとはいえ、2人とも寝てしまっては危ない。


『さっき獣避けの陣敷いたでしょ。僕も見張るし寝ていても大丈夫だよ』

「あら、今の状態のお前に何が見えるというの?」

『言葉のアヤって知らない? イデアはほんとにお馬鹿さんなんだからー』

「……はぁ、お前ってほんとに可愛くないわ」

『率先して見張りを引き受ける僕の健気さが分からないかなぁ』

「そう言って、わたしが寝たら師匠に連絡するつもりでしょうに」

『おっとバレてる』


 伊達に長い付き合いではない。今更、そんな手には乗らないのだ。

 拾った枝を火にくべながら溜め息ひとつ。


「だいたい、こんな楽しいことにノリ気じゃないなんて、お前らしくないわ」


 その在り方のせいで自由に動くことが出来ず、わたしが出掛けたら独りでさぞつまらないだろうと思って連れてきたというのに。

 二言目には「戻ろう」「帰ろう」。


「お前だって、外に出るのが夢だと言ってたじゃない」

『あー……そういう意味? いや、当たらずとも遠からじ、か?』

「とにかく、お前がわたしの味方じゃないのは分かったわ」

『いや、イデアそれは……』

「別にそれはいいの。お前が邪魔することは、つまらないけど、困るものじゃないもの」


 師匠に連絡されてしまうこと以外は。


「わたしは何としても、ブランネーヴェまで行かなくちゃならないの」

『……イデアはそんなに王妃様になりたいってわけね。王族なんてツマラナイものに』


 まるで王族を知っているような口振りは、しかし「くだらない」と吐き捨てるように呟いたあと、わたしが何を言おうとその口を開くことはなかった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

見習い魔女は叶えたい 境傘 @mashi6

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ