第86話 花王蜂のハニーシロップ
フラウが誇る『宝石飴』とサーディが誇る『鉄道』の技術を交換することは次の日には耳の敏いプレイヤーを中心に瞬く間に広まっていった。
正しく言えば、フラウは新作飴である『双月』をフラウでも販売せず、サーディの街独占という形の契約に加え、紅玉と煉獄の個数を一定以上サーディ向けに確保すると言った形だ。
その見返りとしてサーディは優先的にフラウの街に鉄道を敷く事を提供する。追加で維持やメンテナンスを担い、今後新規路線を敷く際は別途料金はかかるが契約に関する優先権が発生すると言った利点がある。
お互いが街を代表する技術を交換したことで、フラウやサーディにを拠点にするプレイヤーは喜んだ一方で、今回関係のない各街の上層部たちの反応は様々といった様子だ。
「フラウは外部市場が出来た都合上、潜在的な商業規模はトップクラスに高いはずです。こちらとしては商業はフラウで、工業はサーディで行いたいと思っています」
そう語るのは今回のフラウとサーディの同盟によってフラウの街にやってきた森の雫のメンバーの女性の方、金髪の長い髪を紐でゆるく纏め、いかにも仕事が出来ますといったアウロアさんという方だ。
「複数の街が協力しないとこの大陸は攻略できないか・・・・・・確かにありそうな話だ。」
「えぇ、大凡の試算ではありますが、少なくとも1つの街単独でこの新大陸を攻略するのは非常に難しいと考えています。本当であれば全ての街がそれぞれの機能を持ち、協力するのが一番なのでしょうが・・・・・・」
プレイヤー達が一丸となって攻略する。ある意味王道なシチュエーションではあるが、そこにはお互いの利益や名声を求めて様々な衝突があるはずだ。
「だからこそ、その先駆けとしてフラウとサーディの同盟ですか、いいんじゃないですか?」
将来的には農業、商業、工業それぞれ専用に街を改造し直して効率よく発展させたい、サーディの街の上層部はそんな事を考えているようだった。
それに関して、自分は勿論フラウのプレイヤーも反論は無かった。
「おいしい」
ペガサスの雑貨屋、なんの捻りもないシンプルな店名となった店の二階には事務所が設置されている。
きちんと整頓がされた事務所の一角には応接用のソファーと横長のテーブルが存在し、その片側のソファーにはまるでどんぐりを口いっぱいに頬張ったかのように頬を膨らませているユナがお茶請けとして用意されていた菓子を食べてそんな感想を言っていた。
「最近発明されたお菓子なんだよ、他にもあるよ?」
「食べたい」
クールな印象のあるユナの目はどこかキラキラと光を帯びた気がするが、やはり女性は甘い好きが多いのだろうか?
【ラップルコーン】
巨大なラップル果実をフライパンで熱した巨大なポップコーン、ラップルの香ばしくも深い味わいの美味しいお菓子
制作評価:7
種類 :料理アイテム
効果 :空腹度回復(10)
最近は料理研究がファンタジーワールド界を賑わしているので、それに触発されたように沢山の料理研究が行われていた。
ペガサスが支援をしている研究も料理研究が多く、比較的早く研究が進むのもあって、試作品の料理アイテムが毎週のように送られてきていた。
「それで、私にお願いって?」
「あぁ、その前にユナは新大陸にもう挑戦した?」
「勿論」
半分生産プレイヤーの自分と違い、ユナは完全な冒険プレイヤーだ。新エリアや新ダンジョンに関する関心は高く、ユナも他のプレイヤーに外れず広大な新大陸のエリアに挑戦したそうだ。
「挑戦したけど・・・・・・攻略は無理、補給が無いしエリアにある水も飲めないからどうしても活動範囲が制限されちゃう」
「やはり」
フラウやサーディと言った街は『シティクリスタル』という街を維持するために必要な特別なアイテムが鎮座している。
シティクリスタルの効果は範囲内にモンスターを発生させないといったものから、飲水の生成、豊かな土壌を育成したりと様々な恩恵をプレイヤーにもたらせてくれる。
そうじゃなければバルバトからの補給だけで街の維持は不可能だ。第一にフラウに隣接されている農地の開発すら出来なかっただろう
「それでユナにはちょっとした提案があるんだけど」
「提案?」
「そう、提案・・・・・・嫌なら全然断っていいんだけど」
ペガサスはそう言いながらアイテムボックスから一つの果実を取り出す。不思議そうにペガサスがテーブルの上に置いたアイテムを見て確認してもいいか?とユナが目線を向けてきた。
「これは?」
「ウチで開発した料理アイテム、とりあえず鑑定してみてよ」
促されるようにテーブルの上に置かれたアイテムを鑑定すると、ユナの目はあからさまに驚いた様子だった。
【花王蜂のハニーシロップ】
白い果実のような見た目をした[フラワーキング・ビー]から入手できる特殊な花の蜜、優しい甘みを持ち使用者の空腹と渇きを和らげてくれる。
制作評価:5
種類 :料理アイテム
効果 :空腹度回復(25)渇水度回復(30)
空腹度&渇水度の減少スピードの低下・中(一時間)
これはペガサス自身というよりは、使い魔であるエファが作ってくれた料理の一つだ。
花王蜂、モンスター名にすると[フラワーキング・ビー]のオス個体がそう呼ばれ、この種類のメス個体である花女王蜂の[フラワークイーン・ビー]は第一大陸の北側に位置する森に生息しているモンスターだ。
この森は第一大陸の最終地点であるバルバトから外れた位置にあるため、当初はそこまで注目されていなかったエリアなのだが、とある一連クエストの内容にはこの森に群生するアイテムを入手しないといけないため、それなりには名前が知られている場所でもある。
そしてその森の頂点が[フラワークイーン・ビー]だ。レベル30を超え、第一大陸では桁違いな強さを誇り、一部トッププレイヤー以外は討伐したという報告が無い強力なモンスターだ。
そして面白いのが、今回アイテムの元となった[フラワーキング・ビー]なのだが、実はこのモンスターは第一大陸には存在しない、種族としてはメス個体の[フラワークイーン・ビー]と同じ種族、そしてこのモンスターは働き蜂の下位モンスター[フラワー・ビー]の特殊個体という立ち位置なのだが、この[フラワーキング・ビー]は妖精大陸にのみ生息する希少なモンスターだ。
[フラワーキング・ビー]のレベルは推定58、強さだけで言えば次の大陸である第五大陸にすら匹敵するが、強さ以上に出会うことが困難なモンスターの代表格でもある。
・・・・・・そんな事を知っているのは自分ぐらいと悲しいところなのだが、ただ[フラワーキング・ビー]の生息域の近くはエファたちのドリュアス族の村があるので、彼らの信頼度を上げる一連クエストで戦う事が出来る。
未知の素材を使うと怪しまれるという観点から、思うようなアイテムが使えなかったものの、[フラワーキング・ビー]こそは第4大陸に生息しており、花王蜂のハニーシロップもそれ相応の性能をしているのだが、幸いにして第一大陸にもメス個体がいることから使えるのではないか?と思いエファに頼んでいたのだ。
「凄い、これなら」
「そう、このアイテムがあれば活動範囲を広げられると思う・・・・・・ただこれは試作品だから数がない、つまりは」
「他の人には秘密・・・・・・わかっているわ、というより話す相手も居ないけど」
さらっと悲しいことを言うユナであるものの、このアイテムは非常に強力な料理アイテムだ。
意外とといえば制作者のエファに失礼だが、最初に作ってもらった【花王蜂のハニーシロップ】は制作評価10、効果も今ユナに渡した倍はあり、[異常状態無効化・小]なんてヤバいスキルも付属していたので少しグレードダウンをして作り直してもらった。
[異常状態無効化・小]自体は第三大陸までの毒や麻痺といった効果を無効化してくれるというもので、一部それらを上回る強力な異常状態を使ってくるモンスターはいるものの、殆どは防ぐことが出来るだろう
流石にそれらを渡すことは出来ないのでユナに渡したものは普通のハニーシロップだ。
「それで、値段は?」
「お金はいらない、ただ広がったエリアのマップデータが欲しいからそれと交換条件かな?」
「なるほど、いいよ」
どうもこの第2大陸の地形はファンタジーワールドと幻想世界で大きく変わっているようで、事前情報が使えないでいた。モンスターの情報は合っているのだが、ファンタジーワールドのコンセプト上、補給地点となる川や数少ない自然の配置が変わっているようだった。
「ただ片道切符になるかもだけど」
「問題ない、すでにやっているから」
あっけからんとそう答えるユナに微妙な表情を浮かべつつも、その冒険が帰り道を考えていない厳しいものになることからどうも勧め難いのだ。
幸いと言うにはユナに対して大変失礼なのかもしれないが、効率を考えるなら、マップデータはギリギリまで広げたいので、帰り分の食料をそのままマップ拡大に使って欲しいというのが本音だった。
「この大陸はモンスターも強くないし、この料理アイテムがあれば良いところまで行けると思う、ペガサスが問題なければこの後用意していくけど?」
「うん、タイミングはユナに任せる。自分は店でやることがあるから」
本来であれば自分自ら調べたいところではあるが、幾つかの研究が完成間近まで迫っており、明日には気になる研究をしているプレイヤーとの面会もあるため長期の冒険が出来ないでいた。
そんな中で口が堅く、実力も信用もあるユナに白羽の矢が立ったという訳だった。
続編のゲームは神ゲーだった 青葉 @direl
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