第十三話


 おおおー、うようよと三世四世くらいの吸血鬼たちが沸いてきましたね。

 さすがに顔見知りの二世吸血鬼であるレムさんやレラさんだと、ちょっと戦いにくいですけど、これなら安心して殴れます。


「魔人か!」「いや吸血鬼っぽいぞ? まて、ハーフか」「な、なんだこいつは!」「気配が我等と同じだが、同族か?」「ならばなぜ我等の城を攻撃してくる?!」「もしや操られているのか?」


 ふふふ、混乱してますねー。

 よし、ここでアレを出しましょう。

 私はポーチに仕舞ってある銀の戦斧を取り出して、両手で掲げました。

 吸血鬼は祖に近づくにつれて、弱点の効果が大きくなっていきます。

 そしてここは真祖の根城。祖に近い吸血鬼しかいないでしょう。

 私が取り出した銀の戦斧を見て、吸血鬼たちが一斉に怯みました。

 この距離でも、かなり効き目あるのですね。


「これで切られたら不死の吸血鬼とはいえ……いえ吸血鬼だからこそ冗談では済みませんよ。大人しく引いてください」


 私がそう声を上げると、たくさんの吸血鬼たちの動きが止まりました。


「ここで引いては真祖ガーラドの血族として恥だ。ダンピール如き一斉にかかれば倒せるぞ!」


 リーダーっぽい人がなにやら叫んでいますが、腰がひけてます。

 言葉と行為があべこべですね。

 銀が相手では、身体がいう事をきかないでしょうし仕方無いのかもしれませんが。

 他の吸血鬼も似たようなものです。

 頑張って戦おうとしているものも居ますが、雷に打たれたかのように身体が動いていません。

 私がゆっくりと城の入り口へ近づくと、まるで海を割ったように吸血鬼たちが引いていきます。


 こ、これは気分爽快!


 ここにいる一番弱い吸血鬼ですら、私程度では勝てないでしょうけど、銀を持っているだけでこれですよ?!

 可憐な美少女冒険者のアオイさんの時代きましたね!


 そのまま城に入ろうとしたとき、中から真っ黒な蝙蝠の羽が生えている、メイド服を着たアリスさんをも上回る大きな胸のサイズの女性が出てきました。

 雰囲気だけでも分かる、ここにいた連中とは一線を画する高位吸血鬼。

 以前会ったときは分かりませんでしたが、今でこそ分かります。

 魔力こそリリスさんに劣るものの、戦闘技術はおそらくリリスさん以上。

 以前リリスさんは、魔人であるジョニーさん含めた数人をまとめて氷漬けにしたことがありますが、あれは単に膨大な魔力を使った力技でした。

 リリスさんから膨大な魔力を除けば、おそらくこのメイドさんが勝つと思います。

 まああくまで仮定ですし、そんな仮定に対して推測するのはナンセンスかと思いますけどね。


 そのメイド服の女性、真祖ガーラドの二世吸血鬼レムさんは周りをぐるりと見渡し、そして次に私を見てきました。


「これは何事? あら、あなたは確か……」

「お久しぶりです、レムさん。以前お伝えしたとおり、クソ親父を殴りにきました」

「本当にきたのっ?!」

「もちろんですよ。心配しないでください、この戦斧で少し頭をかち割る程度で済ませますから」

「銀で頭割られたら、下手すれば即死よ?!」

「その時はその時で。まあ運が悪かったという事で諦めてください」

「一発殴る程度なら見逃すけど、さすがに真祖を殺す気ならそれは看過できないわね」


 ふふふ、引っかかりましたね。


「あ、では一発殴るだけなら見逃してくれるのですね? この銀の戦斧は預けておきますから、ちょっとクソ親父のところまで案内してください」

「ちょっとっ! そんな危険な代物預けられても誰も持てないわよ!」

「使い魔に持たせればいいんじゃないですか?」

「ここに使い魔はいないのよ。真祖の城に使い魔がいると、格が下がるのよ」


 うわー、さすがプライドは非常に高い吸血鬼ならではですね。

 となると、人間もいないでしょう。


「ではこのまま案内してください」

「その銀の戦斧をどうにかしてくれないと、あたしですら満足に動けないんだけど」

「でもこれ仕舞っちゃうと、ここにいるみなさんが一斉に襲ってきそうですし」


 銀がなくなれば、私なんぞもって五秒でしょう。

 いや全力で逃げに徹すれば、十秒くらいはもつかな?


「あたしがガーラド様のところへ連れて行くから、他は待ってて貰うようにするわ」

「それなら良いのですが、クソ親父の前に行ったら出しますよ?」

「それは構わないわ。あの何事もやる気なしの真祖でも、さすがに銀を見れば少しは反応見せるでしょ」


 ああー、やはり生きる渇望を失っていましたか。

 なら頭じゃなく、腕くらい切ってもいいかもですね。

 私としても無抵抗の奴を切っても楽しくないですしね。

 ……我ながら怖い発言です。


「ということで、この子をガーラド様のところまで連れて行くので、あなたたちは持ち場に戻って」

「し、しかしレム様! 危険ですぞ! こやつは銀などという無粋なものを持っておるのです!」

「あたしが良いって言ってんのよ。それに銀程度でうちの真祖がどうにかなると思ってるのかしら?」

「わ、わかりましたが、私もついて行ってよろしいでしょうか?」

「あたしだけで十分よ。もし銀の武器出されたらあなたじゃどうにも出来ないでしょ」

「……わかりましたが、くれぐれもお気をつけください」


 レムさんが私に斧を仕舞うように促してきました。

 プライドの高い吸血鬼ですから、約束は守ると思いますけど怖いですよね。

 でもここでおそるおそるなんて仕草をすると、なめられると思いますので、普段通りポーチへと仕舞いました。

 それと同時に、レムさんだけを残して潮が引くように周りにいた吸血鬼たちも居なくなっていきました。


「さ、行くわよ」

「はい」

「あ、でもその前に、アオイちゃんが壊した城壁の修理代はあとで請求するから覚悟しておいてね」

「ちょっ?!」


 そんな返しが来るとは思いませんでした。

 ギルドマスターに必要経費ということで請求しておきましょう。

 でも何の必要経費にしたらいいのでしょうかね。


 レムさんが城の中へ入っていくのに付いて行きます。

 あ、この石壁の具合は何となく記憶に残っている場所です。

 そのまま通路を通っていくと、周りの部屋から視線が感じられました。

 まあ私は異分子ですから仕方ないですけど。


 通路を抜けると大きな扉が鎮座していました。

 更に赤い絨毯も敷かれています。

 この先がいわゆる謁見の間という奴なのでしょうね。

 その扉の前には衛兵っぽい吸血鬼が二人立っています。


「レム様、何かご用でしょうか?」

「用事があるのはこの子の方よ。ガーラド様はいらっしゃる?」

「そのダンピールが? 確かに同じ血族のようですが……。それより先ほど外が何やら騒々しかったのですが、何かありましたか?」

「その件についてもご報告があるのよ」

「はっ、わかりました。ガーラド様は現在寝室にて休憩をとられております」

「現在というより、ここ三年ほど休憩中よね。全くたまにはここに顔を出してもいいと思うのよね」


 三年も休憩ですか! 二万年生きていると三年何て誤差の期間でしょうけど。

 でも三年もニート生活できるのは羨ましいかもしれません。


「そればかりは我らにも何ともし難いところであります」

「実質彼がいなくても結界さえ張っていてくれれば問題ないのでしょうけど、一応はここの主なんだし、せめて月に一度くらいは顔を出してほしいものよね」

「レム様、それ以上は不敬に当たりますぞ」

「はいはい、じゃあ寝室に行くとしますか」


 衛兵の二人が扉を開けるとレムさんが中に入っていきました。

 寝室はここから繋がっているのですか。

 その後を付いて中にはいると、想像以上に広い空間が広がっていました。

 そして一番奥にとても豪華な椅子が鎮座しています。

 ほほぅ、本当に王様の座る椅子のようですね。


「レムさん」

「どうしたの?」

「あの椅子っていくらくらいするんですか?」

「着目点がそこ?! あなたって本当に面白い子ね。とてもガーラド様の子とは思えないわ」

「性格は遺伝ではなく、環境によって育てられるのですよ」

「へぇ、難しい言葉知っているのね」

「で、おいくらですか?」

「お抱えの職人が作るから値段はわからないわね。でも珍しい魔物の皮など使っているからそれなりにするんじゃない?」

「どうせ三年も使っていないのですから、この際私にくれてもいいですよね!」

「謁見の間に王の椅子がなければ、画竜点睛を欠くんじゃない?」


 王もこの際立って謁見なんて良いと思いますけどね。

 それより、なぜ画竜点睛を欠く、などという諺を?


「レムさん? その諺はどこで?」

「ガーラド様よ。あの人、昔はいろいろな知識を詰め込んだ本を書いていたのよ。それよりアオイちゃんは諺なんていう言葉をどこで知ったのかしら?」

「私の育ての親の一人が本の収集家でして、彼に色々と教わったのですよ」


 ごめんなさい、リリックさん。


「ふーん、いったいどこから漏れたのかしら。まー確かに二万年近く昔だし、誰かが写本を書いた可能性もあるか」


 一人で納得したレムさんは、玉座の右手にある細い通路へと入っていくと、通路の奥には螺旋階段がありました。

 ここを上るのですか。


「この上がガーラド様の私室になっているわ」

「やっぱり偉い人ってのは上に登りたがるんですね」

「それもあるけど、高いところからの方が魔人王のいる場所を見やすいのよ」


 監視するために高いところに居るのですか。

 さて、レムさんの案内はここまでなのでしょうかね。


「ここから先は私一人で?」

「ええ、せっかくの親子水入らずよ? ゆっくりフルぼっこしてらっしゃい。あ、でも壁を壊すのは禁止だからね

「クソ親父が抵抗しなければ、壊す気はありません」

「ふふふ、そう簡単に殴らせてくれるとは思えないけど、がんばってらっしゃい」

「はい、レムさんありがとうございました」


 レムさんにお礼をしたあと、私は螺旋階段の真ん中に立ちました。

 一々階段を使うなんて面倒なことできますか。

 このままジャンプして、部屋に突撃かけてやりましょう。


 足に力を込め一気に飛び上がり、そして階段の頂点につくと同時に、ポーチから銀の戦斧を取り出しました。


 さあ、全力でいきますかっ!


 天井を蹴り、その勢いで真祖の部屋に続いていると思われる扉を殴って破壊しました。

 派手な音がなり響く中、私が室内を見ると。


 そこには真っ赤な目をした二十代半ばの男性と、そして床に一人の男性が血塗れで倒れているのが目に入りました。


 ……まさかお食事中?

 人間をさらって血を吸った?

 確かにここは魔大陸であり、弱肉強食です。

 吸血鬼が弱い人間を襲おうのは自然な事かもしれません。

 でも……。

 許せない。

 しかも、関係ない吸血鬼ならば兎も角、私の親がそんなゲスな事をやっているなんて。


「なっ、貴様は誰だ!」


 私の奇襲に驚いたものの、その男性が手を私へと翳そうとしたとき。


「このっ! クソおやじぃぃぃぃぃぃ!!!」


 一気に頭に血が上った私は、銀の戦斧を掲げ、ダークエルフの秘術である魔眼で相手を見据えました。

 男性の翳した手が力なくだらりとぶらさがります。


 さて、これは片腕なんて生やさしい事は言いません。


 頭かちわったる!!


 床を蹴って銀の威力に動きが鈍っている男性へと近寄り、そのまま戦斧を男性の頭へと振り下ろしました。

 あっけなく男性は両断され、緑色をした血が舞い散り、そしてぴくりとも動かなくなりました。








 え? 緑色??


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ダークでエルフな吸血鬼 夕凪真潮 @mashio_yunagi

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