第42話 新しい生活
夏休みに森鈴子から、鈴木鈴子になったが、呼び名は「鈴子先生」だから変わりはない。しかし、泣き虫の新米先生の姿はもう無い。
「二学期は、運動会があるから、しっかり練習をしなくては。でも、後で学習の遅れを慌てて進めなくても良いようにも気をつけなくてはいけないわ」
そう言いながら、泣き女は達雄が作った玉子焼きが美味しいと微笑む。
始業式の朝、夏休みの新婚気分から、気持ちを切り替える。二人で、新居に引っ越したり、役割分担も決めた。首斬り男は、古風な口調にもかかわらず意外と料理も上手かった。
「男子、厨房に入るべからずと言われるでござるが、母を早く亡くしたので料理を覚えたでござる」
美味しいと褒められて、首斬り男は照れる。今朝は、達雄が朝食当番だったのだ。共働きなので、二人で家事を協力してやる。鈴子先生の今朝の当番は洗濯だ。夏休みは時間に余裕があったが、今日からは忙しくなる。
小さな家から、二人の先生は月見が丘小学校に出勤する。夏休みを楽しんだ生徒達が、元気よく登校してくるのだ。
「先生! おはようございます!」
まだ登校時間には早い校門の前で、だいだらぼっちの大介くんと塗り壁の孫の堅固くんが左官屋さんの軽トラの荷台から、巨大な大阪城の模型を下ろそうとしていた。
「まぁ、大きな大阪城ね!」鈴子先生は、驚く。
「今度は人が中に入れるんや!」日頃は無口な堅固ちゃんが誇らしげに言う。達雄先生は運ぶのを手伝う。
鈴子先生は、この二学期も気を引き締めて指導しよう! と、常識外れの工作を作ってきた二人の後ろを付いて行きながら考えた。良い方向に導かないと、何をしでかすかわからないのだ。
大阪のど真ん中にある月見が丘小学校には、訳ありの子ども達が人間の子ども達と仲良く勉強している。ぽんほこ狸の田畑校長は、今朝も校門で登校してくる生徒達を迎える。
「おはようございます!」
真っ直ぐな瞳にはホッと安堵し、少し斜に構えた眼には心配する。しかし、月見が丘小学校は上手く運用されている方なのだ。先生達は訳ありの子ども達にも理解があるからだ。
「わぁ! なんや、それ!」
1年1組が今日も騒がしい。ぽんほこ狸の田畑校長は、ぽんぽこお腹を叩きながら、ゆっくりと向かう。もう、鈴子先生を信頼しているので、前みたいに駆け付ける必要はないのだ。
「陽炎くん、虫を呼び集めてはいけません」
虫遣いの陽炎くんの昆虫採取は、生きた虫を呼び寄せただったのだ。虫が本当は苦手な鈴子先生は、耐えて注意している。
「食べたいなぁ」と蛇女の瑠璃子ちゃんが呟くのを聞いて、鈴子先生はそれも止める。
「瑠璃子ちゃん、陽炎くんの自由研究を食べてはいけません」
今年は、かなり具体的に自由研究を説明したつもりだったのにと、鈴子先生は何個かは、とても優れているが府には出せそうにないと気落ちする。
『来年はもっとしっかりと伝えましょう!』
そう反省して、気持ちを切り換えると、子なき爺の祐一くんを隣の席の一反木綿の孫の大翔くんの背中から引き剥がす。
廊下から、教室の様子を見ていた田畑校長は、鈴子先生も立派になったと腹鼓を打つ。
ホッとした途端、2年2組から、大きなどよめきがあがる。
「黒丞くん、守くんの膝から下りなさい!」
ぽんぽこ狸の田畑校長は、やっと人間の姿になれるようになったばかりの犬神には、2年生は無理だったのかと駆けつける。
「ほんまに冗談でも、学校で守くんの膝に乗ったりしたらあかんで! ここは日本なんやから、過度なスキンシップはしたら駄目なんやろからな」
珠子ちゃんが、帰国子女の冗談ですませようと、笑い飛ばしている。
黒丞くんは、夏休みの間、べったりと守くんと一緒だったのに、二学期になって席替えがあったので、離れたくないと膝の上に乗ってしまったのだ。
「席が離れても、同じクラスだから」と、守くんはピスピスと鳴き始めた黒丞くんを説得する。河童の九助くんは、守くんの後ろだ。
「田中先生! 俺は真面目に勉強して、東京の音楽大学へ行きたいから、黒丞くんの席と代わらせて下さい」
夏休みから、豆花ちゃんと同じピアノ教室にも熱心に通っている九助くんは、1年の時にプールでクラスメイトの足を引っ張った問題児とは思えないほど成長した。
田中先生は、好き勝手に席を代わるのは許す気は無かったが、本人が前の席を希望するなら話は別だ。
「では、黒丞くんと、九助くんは、席を代わっても良いですよ」
ぴゅうと、守くんの後ろの席についた黒丞くんに、珠子ちゃんは苦笑する。夏休みも、常に守くんの側にいたので、デートも三人で行くしか無かったのだ。
田畑校長は、2年生になって生長した子供たちを満足そうに眺めて、校長室へと帰った。
大阪のど真ん中にある月見が丘小学校では、今日も訳ありの子どもと人間の子どもの元気な声が響いている。
終わり
1年1組は妖怪学級! 梨香 @rika0
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- 毒島伊豆守毒島伊豆守(ぶすじまいずのかみ)です。 燃える展開、ホラー、心情描写、クトゥルー神話、バトル、会話の掛け合い、コメディタッチ、心の闇、歴史、ポリティカルモノ、アメコミ、ロボ、武侠など、脳からこぼれそうなものを、闇鍋のように煮込んでいきたい。
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