第41話 嬉し涙の結婚式!

 夏休みの吉日、2年生になった元1年1組のメンバー達が、各々の一張羅を来て猫おばさんの家に集まる。今日は鈴子先生と達雄先生の結婚式なのだ。

「暑い最中の結婚式やから、どうなるかと思ったけど、これなら花嫁衣装を着ても大丈夫そうやなぁ」

 霙屋から大きな円柱や、氷の彫刻が猫おばさんの座敷に運び込まれて、ひんやりと気持ち良い。鈴子先生は、ムーンライト美容院に花嫁衣装を着付けて貰う。店長は、髪切り婆の娘ではあるが、今日はハサミを店に置いて来て貰ったので安心だ。白無垢の打ち掛けを着た鈴子先生は、幸せで輝いている。

「おば様、お世話になりました」

 両親を亡くした泣き女は、職を世話してもらったり、下宿させてくれた猫おばさんが親代わりだ。三つ指を付いて、頭を下げる。

「鈴子さん、幸せになるんやで! ほら、泣いたらあかん、お化粧が崩れるで」

 泣き女が、こんな状況で泣かない訳がない。普段は薄化粧の鈴子先生だが、今日はノノコちゃんのお母ちゃんにバッチリ花嫁メイクをされている。

「あまり泣いたらあかんけど、ウォータープルーフのアイメイクしてるから、ちょっとぐらいなら大丈夫よ」

 そう言いつつも、涙をテッシュを尖らせたので拭いて、メイクなおしをする。

「もぉ、ええ?」花嫁仕度ができるまで、待っていた女の子達は我慢の限界だ。珠子ちゃんを急かして尋ねさせる。

「少しだけやで」仲人をする猫おばさんは、教え子達に会わせたら、また花嫁さんが泣いてしまうと気を使う。

「わぁ! 鈴子先生、とても綺麗や!」子ども達の顔を見ただけで、鈴子先生の目には涙が溢れそうになる。

「おめでとうございます!」と祝福されたら、ぽろぽろと涙が流れ出す。

「先生、泣いたら、お化粧が崩れるで」

 おませな女の子達に心配されて、泣いたり、笑ったりと忙しい。


 賑やかな花嫁の控え室と違い、花婿の方は静かに正座して待っている。首斬り男は羽織り袴も着なれているので、騒ぐ必要もないが、緊張感が日頃は饒舌な仲人の猫男の口をも黙らせたのだ。

「達雄先生、おめでとうございます」

 こちらには男の子達が押し掛けた。猫男は、ふっと控え室の雰囲気が和らいでホッとする。

「今日は列席、感謝するでござる」

 近頃は、少しはくだけた口調になってきた達雄先生も、今日は緊張しているからか昔の「ござる」に戻っている。

「そろそろ席に着いておこうか」仲人に言われて立ち上がるが、緊張してギクシャクとロボットみたいに歩く。


 猫おばさんの座敷には月見が丘小学校の田畑校長や、仲の良い先生達が招待されていた。式場で結婚式をするなら、大勢招待するのだろうが、鈴子先生は前の1年2組と3組の先生と、今の1年2組と3組の先生。達雄先生は、色々と教えてくれた山田先生を招待した。後は、元1年1組の生徒達だ。本当に身内だけの簡単な結婚式だが、座敷に座って花嫁を待つ達雄先生に、両サイドに別れて座った男の子と女の子達が祝福の声をかける。

「達雄先生、結婚おめでとうございます」

 首斬り男は、少し照れたように笑った。

「ありがとう」と、列席してくれた先生方と、挨拶を交わしていると、仲人の猫おばさんが花嫁の鈴子先生の手を引いて座敷に入る。

「美しい……」ポッと見惚れる首斬り男に、田畑校長もぽんほこお腹を叩く。

 猫娘の珠子ちゃんは、三三九度の容器を二人の前まで運ぶ重大な訳だ。猫男は、芸達者なので「高砂や~」と唄う。写真撮影は、雪男に頼んだ。二人が三三九度をするのを、ぱしゃぱしゃと撮る。

「まだ若輩者ですが、二人で頑張っていく所存でござる。宜しくお願いするでござる」

 首斬り男の挨拶に、花嫁の泣き女も頭を下げる。もちろん、涙が溢れている。

「花嫁さんが泣いたらあかんで」と仲人の猫おばさんは、化粧が崩れてしまうと気が気じゃない。


 昔ながらの家での結婚式は、二人を祝福する気持ちに溢れていた。子ども達は、始めは大人しく祝い膳を食べていたが、ぽんほこ狸の田畑校長が詩吟を唸りだすと、自分達も何かしようとはしゃぎだす。

「なぁ、皆で歌おう!」

 元1年1組のメンバー全員で、合唱する。日頃はやんちゃな河童の九助くんの声が素晴らしいのに、元1年2組と3組の先生は驚く。

「皆さん、ありがとう!」とお礼を言いながらも、鈴子先生は涙を流す。

「泣いたらあかんでぇ!」と子ども達にも言われて、花嫁さんは泣いたり笑ったりと忙がしい。

 田畑校長は、月見が丘小学校をこれからも守っていこうと改めて決意した。訳ありの子ども達と、普通の人間の子ども達が、お互いに助け合って学んで欲しい。そして、訳ありの先生と人間の先生が協力して指導していける月見が丘小学校の発展を願う。


 

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