物語の舞台は一度滅んだ世界。神々の黄昏の後、再生された世界。
今一度、滅びの淵にある世界。
『オワリ、ハジマリ』と鴉が歌う、不穏な世界……
…って、そんな小難しいことはいいんですよ。
ここには、私の厨二が詰まっている。
黒づくめの衣装の少年(大剣付)。
横笛を奏でる美少女(天然な性格だけど、美少女です)。
ちょっと捻くれた物言いの、根は優しい友人たち。
大樹に抱かれ眠る、呪われた村。
笑い声と絶叫とハプニングの絶えない旅。
抗いようのない運命――
少しノスタルジックでセンチメンタルなあれこれで、繊細な世界が作り上げられているのだ。
というわけで、そういうものが好きな人は間違いなく嵌れると思うの。
同志よ来たれ。
繊細な世界の行方と、愛しいキャラクターたちの旅路(と恋路)を見守ろうじゃないか。
まず、美文に目を見張りました。
語彙が豊富なのは言うに及ばず、試しに音読してみたら響きが何と壮麗なこと!
情景描写、叙情的な文節からも、人物の心情をたやすく読み取れます。街の風景1つ取っても、見る人の気持ち次第でモノクロに見えたり、総天然色にも映るもの。
風景描写とは、実は心象風景でもあるのです。
昨今のライトファンタジーでは味わえない、高尚で静謐な空気を、リアルに感じました。
物語も実に重厚。
音楽で魔術をかける、という職業はよくありますが、楽器の名称や演奏に作者様の並々ならぬこだわりが見え隠れします。
そんな彼らが、森へ入れば盗賊に、港に着けば海賊に襲われ、すったもんだの大立ち回りを演じる冒険活劇は、古き王道ファンタジーを正調に継承しています。
…見目麗しき美女が実は男だったときの虚脱感はご愛嬌ですが_| ̄|◯
作者様は人物造形も達者なので、いやぁガチで騙されました。泣いてもいいですか?
舞台の風土や生活様式も、モデルとなった北欧神話を実によく研究しておられます。
人名や地名も、北欧の言語から取ったとおぼしきものもあり、世界観の構築に一役買っていますね。