緻密な心情描写と確かなストーリー。タグ付けが陳腐に感じる程に洗練されたそれは、静かで力強くそして切ない恋の話。
始まりから人を魅了する。辛いものも背負いながら、それでも日常をあるがままに過ごしていく、二人に対して心を打たれました。そして、淡く切ない距離感。彼女が感じた居心地の良い距離感は、読んでいる者には歯がゆく、あと一歩の距離がなんとも言えません。踏み込めば壊れるかも知れない。だから、その場にいるが、数ミリ、数センチと、一歩に満たない近付きを二人は知らない振りをする。人々の心境がよく分かる物語です。
丁寧に書かれた作品で、読みやすいです。作品の空気は重苦しくも、それが味になっています。ただ、主人公やヒロインの背負った設定や運命が明らかになってゆく過程の展開がゆっくりとしているので、その辺りで冗長さを感じてしまう人がいるかもしれません。感情描写は、伏線の内容が前提になっているようで、その辺りでは少し読みづらく、違和感を覚えました。まだ明らかになっていない先を読むのが楽しみです。