6-2 黒川仁
「それで、ハクくん。ご満足いただけたかい?」
ずっと黙りこんでいたハクに僕は尋ねた。
「ああ。そうだな。うむ。吾輩には感情がないので君たちの期待通りの反応は出来ない。満足も不満足も分からない。だが……」
言葉を切ったシロフクロウに、メンバーの視線が集中する。
「感謝しよう。吾輩の中の空白が埋まったようだ」
「それで話は戻るのですが!」
居てもたってもいられず僕はハクに要求する。
「僕のお願いの件、できれば子細にご教授願えないかと」
「ああ、そうだったな。少年。うむ」
ハクと目があった。昨日のようにただ虚無を映すだけの瞳じゃなくなっている気がする。霊圧が薄れたとでもいうのだろか。ハクの言うとおり、空白が埋まったのかもしれない。
「簡単なことだ。強く願う。それだけだ」
「願う?」
「願いは強いほうが良い。一人よりも二人がいい。二人よりも四人がいい。こちら側の少年よ、君が自分の本来の身体の手を握り、残りの人間も数珠つなぎに手を取る。それで皆で強く願うのだ。願うことこそ、人間の強さだ。我々フェノミナには出来ないことだ。その願いの強さが閾値を超えれば、君は自分の肉体に戻りこの世にまた生を受ける」
僕は死を拒否して、生きたいと願い、いびつな形となって知らずに幽霊として彷徨った。
零山は自分の欲望に忠実である生き方を願い、手練手管を駆使して様々なものを勝ち取った。
神室さんは自分の霊感体質を嫌い、なくなることを願った。その願いは世界をでたらめなものに変えてしまうほど強いものだった。
御来屋さんは、フェノミナの根絶を願い、打倒シロフクロウに闘志を燃やした。そしてついに勝利を得た。
僕たちはそれぞれの理由で、ぼっちだった。それがふとしたきっかけで集まった。
本来は決して交わらない願いが交錯して、それがやがて大きな力となった。
誰一人欠けても成し得ない偉業を達成できた。世界を元通りに戻すことができた。
強く願う。
今はそれが嘘でないことも分かる。
御来屋さんが文庫本を鞄にしまいこんだ。神室さんはもう既に両手で自分の鞄を抱えている。
「さあ、行きましょう。本当の黒川くんが眠る病院へ」
御来屋さんの提案に、元気よく神室さんが頷く。
「はい! ほら零山くんも早く」
「えー、俺はいいよ。外は暑いもん行きたくない面倒くさい」
そうは言っているが、僕は零山が本気で言っていないことが分かる。耳の裏がピリピリとしたのだ。やつは嘘を言っている。
そうして僕たちは。
四人で、僕が眠る病院へ足を運んだ。
その後果たして僕が無事に元の身体に戻ることが出来たのか?
そこから始まる長い物語を綴るのは、またの機会に譲ろうと思うのだ。
病院のベッドの上で長い眠りから目覚めた僕に、いるはずのない妹が「お兄ちゃん!」と言って、嬉し涙を流したところからはじまる物語を。
僕にはいるはずのないその妹が、どうみても御来屋さんにしか見えなくて、僕がたいそう困惑するところからはじまるパラレルワールドの物語を。
その世界から帰ってくるまでの一部始終を。
僕の冒険譚と、恋物語はまだまだはじまったばかりなのであった。
〈了〉
永遠のフェノミナ ときわかねなり @tokiwa_k
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