ミステリには猫がよく似合う。本レビュータイトルにも出させて貰ったシリーズの他に、有栖川有栖のレギュラー探偵火村英生も猫好きだし、エラリー・クイーンの名作「九尾の猫」
目を閉じて猫座りをする姿が、沈思黙考する安楽椅子探偵のそれに被るからなのか。(多分やつらはご飯のことしか考えていないが)
本作は猫が喋って推理する。しかも、事件が解決したら、事件自体が「なかったこと」になり、プリキュアの戦闘後よろしく、何もかも元通り。
かといって、ご都合主義の特殊設定ものでは断じてない。
喋って推理する猫は姿を変えた名探偵に他ならないし、特殊設定要素は全て事件とは直接関係のないメタレベルでの話だ。(一部、『過去視』『危険察知』なる能力が出てくるが、名探偵の常人離れした推理力の延長線上と解釈出来るレベル)猫(と主人公)は、現実に得られる手掛かりだけで、頭脳を駆使して事件の真相に迫る。紛れもない本格ミステリだ。
私は、本作の特殊設定は、ミステリを邪魔するものではなく、むしろ元来のミステリの不自然さに理屈を付ける優れたガジェットだと感じた。それはすなわち、
「常に探偵の周囲でばかり不可解な事件が起こる」
「一介の女子高生が探偵行為を行う」
「十分な証拠を得ても、警察に任せずあくまで探偵本人が自ら犯人を指摘する」
「事件が解決したとしても、周囲の人間が殺された中で、主人公たちはそれ以降もまともに生活を送れるのか」
こういった疑問(もしくは、ミステリ嫌いの揚げ足取り)に対する解答として、猫をはじめとした本作の特殊設定は機能しているのだ。
「不○高校、生徒死にすぎだろ!」的な問題を作者も感じており、その打開策としてこの設定を生み出したのだろうか。
ハードウェア的な話ばかりしてしまったが(それだけ魅力的なガジェットだということだ)、猫のスフィーをはじめ、「探偵部」の面々も個性派揃いのツボを押さえた配役で楽しい。
ミステリ好きにも猫好きにもお勧めしたい一作。