概要
返すのは、なくした物ではなく、暮らしからこぼれた意味
海と丘に挟まれた薄明町の公共施設には、通常の遺失物窓口では扱わない「忘れもの」を預かる小さな部屋がある。臨時職員の水科朔が預かるのは、持ち主の生活から意味だけが切り離された品々だ。品に触れると、朔は三つまでの感覚的な断片を受け取る。しかし、それは持ち主の名前や答えを教えてくれるものではない。本人が受け取るか、手放すか、別の場所へ置くか。返すことは、元どおりにすることではない。自分の過去の一部を思い出せない朔は、町の小さな忘れものを返しながら、自分の記憶に触れる機会を少しずつ遠ざけていく。日常のすぐ隣にある、静かな幻想連作。
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