概要
勇者は、布団を敷いている。
浅草に、異世界からの門が開いて二十七年になる。
神谷湊、十九歳。三年前まで異世界の勇者だった。魔王を倒し、褒賞も地位も辞退して帰ってきた。向こうで戦った三年は、日本では五ヶ月にしかならなかった。
いまの仕事は、実家の旅館「かみなり屋」の布団の上げ下げである。
九室しかないこの宿には、異世界からの客が泊まりに来る。三メートルの竜人には浴衣が入らない。日光で溶ける種族は昼に外を歩けない。有機物を食べない石の民には出す膳がない。戒律で食べられないものがある客がいる。湯が熱すぎる客と、ぬるすぎる客がいる。
番頭の玄斎は、三百年この帳場に座っている。彼は客に何も言わない。「聞かれませんでしたので」と言う。
これは、大きな事件が起きない話である。土足で上がった客の足跡を拭き、二重価格の是非で寄
神谷湊、十九歳。三年前まで異世界の勇者だった。魔王を倒し、褒賞も地位も辞退して帰ってきた。向こうで戦った三年は、日本では五ヶ月にしかならなかった。
いまの仕事は、実家の旅館「かみなり屋」の布団の上げ下げである。
九室しかないこの宿には、異世界からの客が泊まりに来る。三メートルの竜人には浴衣が入らない。日光で溶ける種族は昼に外を歩けない。有機物を食べない石の民には出す膳がない。戒律で食べられないものがある客がいる。湯が熱すぎる客と、ぬるすぎる客がいる。
番頭の玄斎は、三百年この帳場に座っている。彼は客に何も言わない。「聞かれませんでしたので」と言う。
これは、大きな事件が起きない話である。土足で上がった客の足跡を拭き、二重価格の是非で寄