概要
文政の世からおよそ三十年。嘉永六年、黒船来航に沸く江戸・雑司が谷。
かつて豆吉屋の看板娘・お蜜に懐いた禿(かむろ)「小春」は、今や「お月(おつき)」と名を変え、亭主・新吉(しんきち)と貸本屋「文亀堂」を営むたくましい女貸本屋になっていた。
三十年経っても変わらぬ姿で、あの男は今日も現れる。
名を「宵書堂(よいしょどう)」
頭巾を目深に被り、大きな背負い箱を担いだ底知れぬその男は、変わらぬ丁寧語で今日も嘯く。「本とは畢竟、毒か薬と同じでございます」と。
だが――お月が手に入れ、小さな騒動を起こしたある一枚の瓦版。
彼が関わったとおぼしきそれを宵書堂は「渡していない」と言う。
黒船、大地震、疫病、そして戦火。音を立てて崩れゆく江戸、十五年の歳月。
誰か
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!心を動かす一冊を、思い浮かべてください。
この小説を開く人は、少なからず「本」に縁がある人でしょう。
読書好き、そこまでいかなくとも、日常の中に「本」があることを当たり前に受け止めている人。
絵本でも、漫画でもいい。
ただそこに在るだけの本。
その本が、どれほど心を揺さぶったか。
衝撃を受け、共感し、心が震えて、本を閉じると同時に溜息が出る。
目の前の現実と没入していた世界の膜が破れて
現実にかえる時。
胸に抱いた本は大切な一冊になっている、そんな経験をしたことはないだろうか。
本というもの、そして物語というものが持つ力。
古の昔より残るものであり続ける物語と言う得体の知れない力。
それを丁寧に丁寧に、紐解くような物語が
『大江戸…続きを読む - ★★★ Excellent!!!謎めいた貸本屋さんと勝気な少女が織りなす江戸ミステリーホラーの傑作
このお話の魅力はなんと言ってもヒロインのお蜜ちゃんが可愛いことです。ちょっと勝気な性格で、不幸を呼ぶ貸し本屋さんに、突っかかる所が良いですね。強い性格の裏側には、幼い頃にお母さんを亡くした悲しみを抱えている面もあります。またお父さんのお団子屋さんを手伝っている姿も健気で良いなあと思います。
そして、謎めいた貸本屋さん、アニメ化したら石田彰様でお願いします。糸目なんですよ。品があって、ちょっといい着物を着ている所が素敵です。会話は、曖昧な受け答えをして、話し相手の気持ちを揺さぶってきます。輪郭が無いのに芯に来るというか。
このお話、とっても面白いのに★が思ったより少なくて、本当にもう、あと…続きを読む - ★★★ Excellent!!!世界観。物語。全てが最高です
舞台は江戸。
そしてこの物語の鍵は本です。
おそらくカクヨムを使う方々には、忘れられない一冊というものがあると思います。
それは、価値観を変えたり、救われたり、涙したり、絶望したり。心に大きな跡を残すそんな物語が胸の中にあるでしょう。
貸し本をきっかけとしたファンタジー小説なのですが、この物語を勧めたい点が江戸を舞台にしているところです。
有名な著者。太宰治や夏目漱石、森鴎外や宮沢賢治。それよりも遥か昔の人が書き綴った物語に焦点が当てられています。
もう、息を吸うだけで香りがしそうなほど作り込まれた世界感。名前も知らないような昔々の物語と、その物語に心を揺さぶられる人々。
たま…続きを読む - ★★★ Excellent!!!貸本を主題とした、あたらしい時代劇
作品紹介を読んだ時、「銭天堂」「笑ゥせぇるすまん」のようなお話なのかな・・・? と思って読み始めました。
描かれるのは、情緒あふれる賑やかな江戸の町。本を愛する茶屋の看板娘。そして・・・謎めいた貸本屋。
五感の描写がふんだんに用いられ、文政五年の手触りが伝わってくるかの様な文体です。それでいて一文一文が読み易く、物語はテンポの良く展開してゆく。それらは全て、作者様の高い筆力の証左に他なりません。
私がこの物語に惹かれた最大の理由は、登場する物語が実在のものだということです。銭天堂のように、魔法の様な品々が超常現象を起こすわけではない。青空文庫で今も読める、江戸の町人文化で生まれた物語た…続きを読む