【読切】魔砲のプリンセス ヤンキーモモ

五平

フリルと根性と友情でぶっ放す!

ピンク色のフリルがあしらわれた、可愛らしいドレスを身につけた少女が、荒れた街道を闊歩している。彼女の名前はモモ。遥か彼方の王国から魔王討伐の命を受け、たった一人で旅を続けるプリンセスだ。しかし、彼女の口から飛び出す言葉は、およそ王族らしからぬものだった。


「ったく、この道、舗装してねぇのかよ!テメーら、税金で何してんだコラ!」


モモは苛立ちを隠さず、道端の小石を蹴り飛ばす。その所作は、淑女のそれとはかけ離れた、筋金入りの元ヤンキーのそれだった。彼女の瞳は鋭く、その内に秘めた「ベクトル」は、まさしく番長クラス。だが、彼女の心は、見た目とは裏腹に、義理と人情を重んじる「NG(ナイスガイ)」な精神に満ち溢れていた。


旅の途中、モモは荒廃した村に立ち寄った。村人たちは魔王軍の略奪に苦しめられ、怯えきっていた。

「へへへ…この村は、俺様たちのモンだぜ!」

村の広場では、魔王軍の下っ端兵士が、村人を脅していた。モモはそれを見ると、眉間に深いシワを寄せた。

「おいコラ!弱いもんイジめてんじゃねーぞ、コノヤロー!」

モモの怒声に、兵士たちはギョッとして振り返る。

「んだと、てめぇ!どこぞのお姫様だか知らねえが、口の利き方に気をつけろや!」

兵士の一人がそう叫ぶと、手のひらから小さな火の玉を放った。

「やれるもんならやってみろ!」

モモは舌打ちすると、優雅なドレスの裾を豪快にまくり上げ、掌を突き出した。

「詠唱?あんだって?んなもん、めんどくせーんだよ! っしゃぁああああ!!!」

彼女が叫んだ瞬間、掌から放たれた炎の球は、兵士の火の玉を瞬時に飲み込み、さらに巨大化して兵士たちを吹き飛ばした。その速度と威力は、従来の魔法理論を完全に無視したものだった。


モモの魔法は、教科書に載っているような生半可なものではない。それは、彼女の「気合い」や「根性」といった、感情の「暴走」をエネルギーに変える、独自の戦闘スタイルだった。


「ふん、この程度のザコじゃ、俺様のウォーミングアップにもならねーな!」

モモは鼻を鳴らすと、倒れた兵士たちを横目に、村人たちに目を向けた。

「テメーらも、いつまでもやられてるだけじゃねーぞ!立ち上がらねーと、誰にも助けられねーんだぞ!」

彼女の言葉は荒々しかったが、その瞳には、村人たちへの深い思いやりが宿っていた。村人たちは、最初こそ戸惑ったものの、やがてモモの言葉に勇気づけられ、顔を上げ始めた。


その日の夕方、モモは村人たちに別れを告げ、再び旅に出た。

「姐御!気をつけて!」

村人たちは、口々に叫び、モモを見送った。モモは手を振りながら、小さく呟いた。

「ったく、しょうがねーな。だが、これが俺様のNG(ナイスガイ)ってもんだ」


数日後、モモは魔王の居城へとたどり着いた。そこで彼女を待ち構えていたのは、魔王軍の幹部、ドクター・ブラッドだった。

「ほう、噂のプリンセスか。しかし、その魔法は粗野で無秩序。私のような洗練された魔術には、到底及ばぬな」

ドクター・ブラッドは、優雅な詠唱と共に、氷の槍をモモ目掛けて放った。

「うるせぇ!チンタラしてんじゃねーよ!」

モモは氷の槍を素手で叩き割り、一気に距離を詰める。

ドクター・ブラッドは怯まず、さらに強力な魔法を繰り出した。

「貴様の根性など、私には通用せん!この世界を支配するのは、愛と希望の光なのだ!」

ドクター・ブラッドが「愛」や「希望」を語り始めたため、モモは感情の「助走」を開始した。彼女の頭の中に、かつての仲間たちの顔が次々と浮かぶ。夜の埠頭、星の下で語り合った夢、喧嘩別れした仲間への思い……。

「愛…?希望…?そんなもん、ヤンキーの友情には勝てねぇんだよ!絆なめんな!コラァ!」

モモの瞳に炎が宿る。彼女の体から、虹色のオーラが噴き出した。それは、彼女の「根性」や「友情」の感情が最大限に高まった証だった。オーラは、みるみるうちに巨大な魔砲に形を変えていく。


「友情と根性、ぶちかますぞコラ!」

モモはそう叫ぶと、自身の全身全霊を込めて、最終奥義を放った。

「魔砲(マジ・キャノン)インファイト・ブレイク!!!」

虹色の魔砲は、ドクター・ブラッドの魔法を粉砕し、彼をはるか彼方へと吹き飛ばした。


激しい戦闘の後、モモはボロボロになったドレスのまま、地面に倒れ込んだ。しかし、彼女の顔には満面の笑みが浮かんでいる。

「ったく、強ぇ相手だったぜ…」

彼女はそう呟くと、空を見上げた。

彼女は、ヤンキー精神と魔法の力が融合した、新しい時代のプリンセスとして、世界を救ったのだ。

そして、彼女の元に、以前助けた村人たちが集まってくる。

「姐御!」

「モモ姐!」

彼女は、皆の笑顔に包まれながら、静かに目を閉じた。

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