イクラ。
これをコズミックホラーに昇華するアイデア、話しかけてきた男を最初は「何を言ってるのだ?」と遠巻きに見る傍観者として読み進めていくと、だんだん狂気に呑まれていくような気持ちになり、私もいくらを覗き込めば生命が息づく世界が見えるような気がしてくる……
私など取るに足らないちっぽけな存在なのだ!私も小さなイクラに住んでいるのかもしれない!ならば細かいことは気にせず好きに生きよう!だっていつか、私が住むイクラは何者かに食べられるかもしれないしな!
……なんだろう、心地良くなってくる不思議なホラー。
作者カクナ ノゾム氏のじわじわと読者を「この話はフィクションではなくもしかして」と引き込む手腕にまんまと絡め取られました。
記憶を消してもう一度読み返したい。
いくらという食材に対する独特の哲学的視点が伺える作品です。
秋鮭から採れたばかりのいくらの美しさ。
透明な橙色に輝く粒の描写は、まさに詩的です。
屋台の暖簾をくぐる瞬間を「一日のご褒美」と表現する主人公の心境には共感せざるを得ません。
物語の展開は予想もつかない方向へ進みますが、その過程で語られるいくらへの深い洞察が印象的です。
球体の美しさ、薄膜の神秘性、そして口の中で弾ける瞬間の豊かな体験。
これらすべてが、いくら丼という料理への新しい見方を提示してくれます。
隣席の謎めいた男性の語りは奇想天外ですが、彼の情熱的な口調には妙な説得力があります。
読み進めるうちに、読者もまた主人公と同じように、その不思議な世界観に引き込まれていきます。
きっと次にいくら丼を注文する時、あなたもあの透き通った赤い粒を、これまでとは違った目で見つめることになるでしょう。
いくら丼を食べるたびに思い出したくなる、素敵な幻想譚でした。