第4話
そんなこんなで今日、俺は彼女——成瀬明美と一緒に魔法技術者育成高校の入学式の日を迎えた。
多くの新入生が歩く道を二人も進む。会話をしている学生は少ない、確かに今日から「初めまして」という人の方が多いかもしれない。
魔法技術者育成高校。国内において最初に設立された魔法科を持つ学校は国内外からも高く評価されている。現在も世界に通用する人材の育成を行い、学生の大半が魔法関連産業への進路を希望している。
今の時代において魔法使いの価値は高戦闘能力者だけではなくなっている。
だが不思議といつの時代にも同じくして社会変化流れに抗おうと運動を起こす者は少なくない。
隣を歩く成瀬明美は不安そうな表情をしている。理由は何となく分かっている、まあ現代時点でこの情報を知っているのはこの場には彼女と俺だけだが。
高校に近づくにつれて荒げた声が耳に入る。既に少し先の正門近くには人だかりができている。
「魔法教育反対! 反対!」
発言と同じ内容が書かれたプラカードや旗を持っているの反魔法教育デモの団体だ。子供、若者は少ない。その理由は「デモだから」と単純なものではない。
魔法を民間が使用できるのになったのは今から三十年ほど前。訳の分からない力、魔法をそう述べる人は少なくない。
「隊長さんから聞いていた通りですね、私たちもそうですが他の新入生の皆さんは大丈夫でしょうか?」
「法律的には街中での魔法は厳罰の対象になる、魔法の発動者に相手を気づ付ける意思がなかったとしてもそれは変わらない。既定外の魔法は原則使えないように教えられているはずだが……」
デモ隊の中には批判的な意見を超え、挑発とも思われる発言をする者もいる。
「それより成瀬はこのままでいいのか?」
「はい? このまま、と言うと?」
「家の事だ、別に俺の方は部屋も余ってるから居てもらって構わないが」
「そのことでしたか、はい。私の方としては今から近くで家を探せと言われる方が難しいので、よろしければ……その、この任務中は今のまま居させていただけると助かります」
「そうか」
「あっ、でも何も無しでというのではなく家事などの私ができることに関しては可能なかぎりやらせていただきます」
「俺の方もこの任務中に追加の別任務があるかもしれないからとても助かる」
「では早速今日から夕飯を作らせていただきます」
―― 教室 ——
式が終わり俺たちは各人の教室に集められていた。成瀬とは別クラス、こちらの方が多方面に顔が利いて情報収集がしやすい。
任務の事を考えていると前に座っていた同じく新入生が俺に話しかけてきた。
「何か用か?」
「さっきから難しそうな顔しているから気になって、入学式の日から早々に考え込むなんてよっぽどの悩みなんだろうな。よかったら俺にも聞かせてくれよ」
よほど
「別に聞いて面白い悩みじゃないよ、あ……えっと」
答えたはいいが相手の名前を知らないことを忘れていた。
言葉に詰まった俺の反応を見て察したらしい。
「すまんすまん名前言うの忘れてた、俺は
「俺は
差し出された手を俺は握り返した。隊長や任務関係でする握手とは何かが違う、明確には分からないが確かに違う。
「それよりこの後どうだ、学校内を見てから帰ろうと思うんだが」
「そうだな、確かにそのことは考えてなかった……もう一人一緒でもよければ」
「もう一人、友達か?」
「そうだな……。他のクラスだがこっちに来るよう言ってあるから大丈夫だ」
「そうか、じゃあこの後行こうぜ」
適当な合図地をかけして俺は教卓の方へと顔を向けた。他の生徒達も次々に席に戻る。どうやらこの後に担任が来るらしい。
チャイムの音と同時に教室の扉が開き、長い茶髪の女性教師が入ってきた。
「初めまして、私がこのクラスを受け持つことになった担任の
厳しそう、多くの生徒はそう思ったよだ。顔の無表情さやてきぱきとした発言や行動がさらにそう印象付けている。
「私から説明することは特にない校則や学校の地図なんかの基本情報はホームページに乗ってる、どうしても分からないことがあるな後で個人的に質問に来い。私の机は教員室に入って三列目の四番目だ。それと入学して早々に試験をする、書類は教卓に置いておくから各自取るように、では」
そう言い残して担任は教室を後にした。
目に座る相原が顔をこちらに向る。
「何というか、嵐みたいだったな……」
――——
少々話したのちに廊下に出ると成瀬が誰かを探すようにして歩いていた。
どうやらこちらに気が付いたらしい。
無彩の魔法使い 涼梨結英 @zyugatunomochituki
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