チェンジ

朔名美優

チェンジ

 一人暮らしを始めて三年目。平穏な生活のはずだった。

 最初の違和感は些細なものだった。

 机の上に置いたボールペンが一本、消えていたのだ。

 だが次の日には、冷蔵庫の牛乳が半分減っていた。飲んだ覚えはない。

 その次の日には、本棚の本の順番が変わっていた。


 他にも、気が付かない程の些細な変化が身の回りに起きている。そんな気がした。


 しかし、すべて気のせいだろうか?


 落ち着かない日々が続く。


 不安にかられ、一晩中スマホの録画を回して眠った。

 翌朝、確認した映像の中に映っていたのは、自分だった。

 眠っているはずの自分が起き上がり、牛乳を飲み、本を整理している。


 しかし映像をよく見ると、その“自分”は歪んでいた。顔が長く伸び、口角が裂けるほどに吊り上がっている。

 “それ”はカメラの前に立ち止まり、レンズを覗き込んで囁いた。

 

「そろそろ、交代チェンジだ」


 心臓が凍りついた。背後で、冷蔵庫の開く音がした。振り返ると、そこに“それ”が立っていた。

 目は黒く沈み、口からは牛乳と血が混じった液体を垂らしている。


 次の瞬間、“それ”が一歩踏み出す。

 長い指が眼前に迫る。

 そして、その指が顔に食い込み、皮膚をつかんでゆっくりと剥ぎ取っていく。

 「ほら、同じ顔になった」

 剥がされた皮膚が床に落ちる音が、やけに鮮明に響いた。


 最後に見たのは、自分の顔をかぶった“それ”が、笑いながらこちらを覗き込む姿だった。


          【了】

 

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チェンジ 朔名美優 @sanayumi_k

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