香水

ひとしずくの香水は、夜の空に落ちる星の涙。

透きとおる瓶の中で眠る雫は、

まだ名を持たぬ夢を秘め、

開かれる時を静かに待っている。


香りが花ひらくと、薔薇は恋の予感を唇にのせ、

すみれは淡い秘密を胸に忍ばせる。

白百合は優雅に微笑み、

琥珀はあたたかな抱擁をささやく。


その香りは、見えぬ翼のように心を包み、

やわらかな余韻は、

月光のヴェールとなって宵闇に漂う。


けれど、その甘やかな囁きは、永遠を知らない。

香りはひそやかに薄れてゆき、

ただ切なさだけを残す。

だからこそ、その一瞬は宝石よりも美しい。


その香りは、触れぬ言葉を運び、

時を超えてもなお胸を震わせる。

甘く、儚く、夢のように。


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ことばのジュエルボックス 月森澪羽 @tsukimori

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