☆第24.5話☆ 【老舗カフェ】




 貿易街『アトゥラス』へ滞在し、二日目の朝。


 アトゥラス西側に位置し、見た目五十代の男性が営んでいる古びたカフェ。

 

 内装は少し高級感のあるカーペットが敷かれていて、カウンター席が六つにテーブル席二つ。


 その内、左から二つ目のカウンター席にアトラが座っている。


 他に客は居ない。


「なぁマスター」


「何かな?」


「俺は三人の仲間と一緒に旅をしてんだけどさ、その仲間の中にとんでもなく年の離れた女魔法師がいるんだけど、どう思う?」


「どう、と言うと?」


「見た目は俺たちと変わらないくらいなんだけど、実際の年齢を知った時に、俺は腰を抜かしちまったんだよ」


「それは君が、その女性を期待していたからかい?」


「いや別にそういうわけじゃないんだ。ただ年齢が近いと、お互い共感がしやすい話が出来るんじゃないかって思ってたんだ」


「ほう」


「でもほら、年齢が離れてると噛み合わない話も出てくるわけで、それにどう対応すればいいかわからなくなっちまって......」


「なるほど理解した。私から言えることはもう何も無いね」


「――早過ぎだろ! まだ悩みを言っただけだろ!」


「まぁ落ち着いて。これでも一杯飲んで」


「何これ?」


「ミルクだ」


「頼んでねぇ!」


「まぁまぁ。私からのサービスだよ」


「それならいいけど......」


「金貨一枚ね」


「金取んのかよ!」


「当たり前さ。私が大切に飼育している牛から搾った、無殺菌ミルクなのだから。普段は親しい人にしか出さないけど、今日の君には特別」


「別に俺おっさんと親しくないけど」


「特別さ」


「じゃあ美味しく頂くよ」


「ああ」


「......美味い」


「ついさっき搾ったものだからね。搾りたてだ」


「そっか。無殺菌だもんな」


「よくわかってるじゃないか」


「って、ミルクの話がしたいわけじゃないんだよ!」


「え? 楽しそうに聞いてくるから興味があるのかと」


「ないわけじゃないが、今は俺の悩みを聞いてほしんだって」


「そうかい。でその悩みとは?」


「――あんた人の話聞いてたか?」


「あ〜。仲間の年齢差のことだね。えっと、『私から言えることは無い』というのは、私から言えることは無いということさ」


「さてはおっさん頭悪いな?」


「失敬な。これでも一つのカフェを経営している者だ。馬鹿にしないでほしいね」


「確かに」


「はい、お待ちどうさま。『猫もビックリ・肉球ビッグランデパンケーキ』。レッドベリー多めにしておいたよ」


「うおっすげ! マスター器用に焼くんだな! 美味そう!」


「是非とも味わってほしい一品さ」


「いただきます!」


「はいよ」


「何だこれ......最高すぎる......! うんめ〜!」


「お気に召して何よりだ」


「何でこんな目立たない場所に店置いてるんだよ? 表通りに構えれば儲けもんじゃないのか?」


「私は儲けたくてお店をしてるんじゃないんだよ」


「なんで?」


「この店は叔父が人生をかけて作った大切な宝でね。そんな大切な宝を失っては勿体無いと思い、私はここでこの店を受け継いでいるのさ」


「......マスターにも色々あるんだな。変なこと言って悪かったよ」


「まぁそういうことさ。『私に言えることは無い』という意味がこれで完璧に伝わったかな?」


「――わかるわけねぇだろ」


「そうかい」


「......でもなんとなく言いたいことは理解できたぜ?」


「ほう」


「でも言葉にするのが難しいな」


「少しだけでも伝わったのなら上々さ」


「ありがとう。ちょっとだけ前向きになれたよ」


「そうかい。それならよかった。じゃあ冷めないうちに召し上がるといい」


「そうするよ」

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