最終話 家族の絆

 人間と魔族の長い戦いが終わろうとしていた。


 エギルは人間たちから責められ、暴力を振るわれ、その立場を失ったと聞く。

 彼の奥方である王妃が話し合いの場にやって来て、和平に応じてくれた。


 魔族のことはまだ信じられないが、俺のことは信じられるようだ。

 以前、彼女とは話をしたことがあり、俺のことを慕ってくれていたとのこと。

 まさか俺のことを好きな人がいてくれたなんて。

 嬉しい限りである。


 ともかく、俺のことを信じてくれる女性との話し合いはスムーズに進み、俺たちと人間側の和平は無事に決着がついた。


「クレス。あの男のその後のことは聞きました?」

「さあ。もう興味も無いね」

「人間の王妃の話によると、汚らしい恰好で森の中にいたのを確認したという噂があるとかないとか……」

「ははは。とんでもない暮らしをしてるみたいだな。ま、裏切者の末路としては相応しいか」


 木造の家屋で、俺はヴィヴィとそんな会話を交わしていた。

 エギルの結末は碌でも無いものだったようで、聞いていると笑いがこみあげてくる。

 これまで随分いい目にあってきたんだ。

 大きな付けが回ってきただけだろうと、同情の余地も無い。


「パパ、ママ、今から狩りに行くぞ! モンスターが出現したらしい。村の皆に被害が出る前に処理をしようではないか」


 まだ5歳のはずのシオンはしっかりしており、家に帰ってくるなりそんなことを言い出す。


「分かったよ。じゃあ俺が一人で倒してくる。シオンとヴぃヴぃはお留守番な」

「嫌だ! 私も行くからな!」

「ダーメ。まだシオンは子供だから、危険なところには連れていけないの」


 文句を言うシオンであるが、ヴィヴィに抱き抱えられ恨めし気な視線をこちらに向けてくる。

 可愛い我が子のこの表情。

 いつまでこんなに可愛いままでいてくれるのかと、俺はニコッと笑う。


 いつかシオンには真実を話さなければならない。

 俺は本当の父親では無く、この子の父親を殺した調本人だと。

  

 そのことを考えると胸が苦しくなるが、だが避けては通れない道。

 少し眉を顰めシオンを眺めていると、彼女は何かに気づいたような顔をして口を開く。


「ああ、そうだパパ」

「ん?」

「私の本当の父親のことは分かっている。私は生まれた瞬間から全てのことを記憶しておるからな」

「……え?」


 とぼけたような顔でとんでもないことを言い出すシオン。


「私は恨んでおらんぞ、パパのことを。むしろ尊敬している。国のために戦い、そして魔族のために戦い続けて来た。そんなパパを殺そうなんて、私は考えておらんからな」

「シオン……知っていたなんて驚きだわ」

「ママが本当のママじゃないことも分かっている。でもそんな些末なことはどうでもいい。私たちは家族で――種族を超えた絆を築くことができた、世界で最初の存在。これからも楽しく暮らして行こう。本物の家族として」


 シオンが言ったことに、俺とヴィヴィは大笑いしてしまう。

 いつの間にか子供はとんでもない成長をしていたようだ。

 自分たちが育ててきたという自覚はあるが、これは魔王の娘としての素質だろう。

 いずれ大物になるのは間違いないな。

 

 俺はヴィヴィに抱かれたままのシオンをこちらに抱き寄せ、そして歩き出す。


「シオンは大人だな。じゃあこれからの狩りは連れて行ってやる。シオンには世界で起きていることを知ってもらい、何が正しいのかを理解してほしいから」

「流石はパパ。話が早くて助かる」

「なら私も行くわ。シオン……様のことをあなた一人に任せておくわけにはいかないから」

「ママよ、私はママの娘だ。様付けなんて他人行儀なことは止めてくれ」


 シオンにそう言われたヴィヴィは少し戸惑いを見せるが、しかしすぐに「分かったわ」とだけ笑顔で口にする。


 いつしか本物の家族となった俺たち。

 種族など関係無く、心で通じ合えた家族だ。


 俺たちはこれからも幸せに暮らしていくのだろう。

 この極寒の地で、どの家庭よりも熱く温かく。


 おわり


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 種族の違いに血の繋がりは関係無く、家族を作れるというお話を書かせていただきました。

 楽しんでいただけていたら幸いです。


 これからも新作を投稿していきますので、良ければお気に入りユーザー登録をしておまちいただけると幸いです。

 それでは最後まで本当にありがとうございました。

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最強の【狂戦士】、仲間に手柄を奪われたので魔王の娘を養子にして村作りを始める~気がつくと村は一大国家となり、英雄となった【勇者】とは敵対することになりまして~ 大田 明 @224224ta

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