止まった新幹線
清水らくは
止まった新幹線
新幹線が止まって、三か月(と言っても今日だけど)になる。
あの日(と言っても今日だけど)僕らの乗った新幹線は、大雨になって止まってしまった。あたりは暗く、何があるのかわからなかった。1時間ほどたった頃、驚くべきアナウンスが流れた。
「皆様にお知らせします。ここがどこだかわかりません」
騒然とする車内。だが、もう少しいると誰もが首をひねり始めた。
きっと僕もが違和感を抱いていた。おなかがすかないのだ。そして、尿意もない。そういえば、誰もトイレに行っていない。
24時を過ぎたころ、多くの人々が「そんな」や「やっぱり」とつぶやいた。日付が変わっていないのである。戻った、と言うべきか。
そんなことはあるはずがないと思いながらも、みんな気が付いていたのだ。時が止まっている。
扉が開いて、見たことのある二人組が入ってきた。漫才で有名なコンビだ。「なんかね、どこにも行けないみたいやし、ちょっとネタの練習がてら皆さんに見てもらおうと思いましてね」
彼らは漫才をはじめ、車内は笑いに包まれた。
しばらく経つと、フルートを持った女性が訪れて演奏した。その後には三人の少年が来て、ダンスを披露した。
三か月の間、いろんな人がいろんなことをした。
僕はずっと聴衆だった。それが少し後ろめたくもあったけど、隣の人が僕にこう言った。「客であることも仕事ですよなあ」
時空が歪んでまで仕事をするのは日本人らしい、と思った。
漫才もフルートもダンスも、見飽きることはなかった。感覚も止まっているのかもしれない。上達も止まっているとしたらかわいそうだ。
がた、と音がして新幹線が動き始めた。トンネルに入り、そこを抜けると建物の灯りが見えた。
車内に、ため息がこだました。おなかが減ってきた。人々がトイレに並ぶ。
誰も隣の車両から来ることはなかった。つまらない時間だった。
止まった新幹線 清水らくは @shimizurakuha
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