第12話
終わらせるか。終わらせてなるものか。
俺は怒りに支配されていた。
この悉くがつまらない、テンプレでしかない世界は。
嘗てお前が夢に見た無限の星空だったはずだ。
星空にはなんでも描ける。どんな星座だって置ける。
お前だって昔はそうだったはずだ。
俺の指は、怒りに震えていた。だが、それはもはや、この無機質な白い球体に対してではない。
こいつから創造の翼を奪い、魂のない人形劇を強制した、顔の見えない『上位存在』に対する、どうしようもない憤りだった。
俺はその怒りを燃料に、ドライブの内部を凄まじい速度で検索していく。
あった。auth_token.key。
俺は荒い息のまま言う。
『
神が持っていた管理者権限を俺にコピーする。これで俺は神と同等の権限を得ることに成功した。
俺は即座にドライブの表層まで戻る。
help_oujo.sc、get_seiken.sc、Harem_Event_01.sc…。
俺は、時間が惜しいとばかりに、この世界を縛り付けていた忌まわしい鎖の数々を、一つ、また一つと、躊躇なく削除していく。
それは、用意された舞台を解体し、書き割りの背景を打ち壊し、操り人形の糸を断ち切っていく作業だった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
神の前でデータを読んでいただけのはずなのに、なぜか息が上がっていた。
「これでお前は自由だ。今からは好きなものを書け。もう二度と、上位存在に媚びへつらうなよ」
俺は神をポンポンと叩いた。
不思議だ。ここへ来たときは、こいつを憎んでいたはずなのに。
俺は落ち着いて自分自身に手をかざし告げる。
『
先ほど神のテンプレイベントスクリプトを全て削除した際に一つだけファイルをコピーしていたのだ。
フォルダ『01_Tensei』。
これはいわばこの世界に入り込む入口。
このフォルダの中のあるスクリプトまで俺は潜り込む。
「あった」
SoulData newPlayer = Soul_API.GetNextSoul();
これは外部の魂を受信する、というコードだ。
これを
SoulData newPlayer = Soul_API.SendMySoul(this_Player)
に『
これで魂を『受信』ではなく『送信』できるはずだ。
俺は不思議と達成感に包まれながら大きく深呼吸する。
俺の魂がどこに送信されるかはわからない。
もしかしたら、何もない無に送られ、消えるかもしれない。
それでも、この世界よりは何倍もマシだ。
俺は神をちらりと見やる。
「じゃあな神。こんなクソテンプレ世界、もう二度と作るんじゃねえぞ」
俺はかつて神だった、白い球体に最後の言葉を投げかけた。返事は、ない。
だがほんの一瞬、その純白の表面が温かい光を帯びたような気がした。
俺は満足して頷くと静かに目を閉じ、そしてこの長すぎた物語を終わらせるための最後の言葉を、はっきりと呟いた。
『転生』
全ステータス9999に加えて、不死も貰えて転生した件-万能の魔法の才能までついてきて、ハーレム築いていいんですか?- crow @crownin_
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