1分で読む、思い付きのストーリー

長月そら葉

第1話 図書委員、隣のきみ

 ぼくには、とても気になる人がいる。

 気になるという意味には色々あると思うけれど、ぼくのそれはきっと恋愛感情。何故そう思うのかと言えば、彼を視界に入れるだけで心臓がドクンと音をたてるから。


宇佐美うさみ、そっちのアンケートまとめ終わった?」

「あ、うん。後は先生に提出するだけだよ、大神おおがみくん」


 誰もやりたがらなかったから、そんな理由で選ばれた図書委員。まさか、大神くんと同じ委員会に所属することになるなんて思わなかった。

 クラスの人気者で、陽キャの彼が、実は読書好きで毎週図書館に通っていたなんて。放課後になるとすぐに学校を出て帰り道にある書店に行くぼくは、全く知らなかった。だけど、これは貴重な接点だ。


「今日はあんまり人来ないな。暇だし、本読んでても良いんだよな?」

「うん。先生がそう言ってたね」

「じゃあ、そうしよ。宇佐美も読んだら? 休み時間に呼んでた本の作者が昔書いた小説、ここにもあるはずだし」

「そうだね、読んでみるよ」

「おう」


 大神くんは、放課後の図書委員活動である図書館当番の合間に本を読んでいる。ぼくにもお勧めしてくれるから、話せることが増えてとっても楽しい。

 今日は本を返しに来た生徒以外、図書館に留まる人はいなかった。


「はい、これな」

「ありがとう……」


 大神くんが持って来てくれたのは、確かにぼくの好きな作家の作品。誰も来ないことを良いことに、ぼくらは受付の椅子で読書に勤しんだ。

 それは、陽キャと陰キャの交わるはずのない交わらないはずの接点。

 読書に勤しんだというのはちょっと嘘で、ぼくは隣の彼が気になって仕方がない。何度かチラチラ見ていると、大神くんと目が合った。


「何見てんだよ?」

「え? あ、ご、ごめん! あの、えっと……ここの文章が好きだなって思って」

「ふうん? 何処?」

「えっとね、ここ……」


 そう言って文庫本のある一行を指差すと、大神くんは躊躇なくぼくの手元を覗き込む。ふわりといい香りがしたのは、柔軟剤かな。


「これか。……『いつもの喫茶店、いつもの席。いつもの窓際の席に、あの人が座っているのが見える。彼の背中をなんとなく見ている時間が、わたしは好きだ。』って、ちょっとこの感じ、宇佐美っぽいな」

「――えっ」


 びっくりして顔を上げると、大神くんがふっと淡く微笑んだ。


「きっとこの小説の主人公も、同じ顔するんだろうな」

「どういう意味……?」

「内緒」


 唇の前に人差し指を立て、大神くんは意味ありげに微笑んだ。

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1分で読む、思い付きのストーリー 長月そら葉 @so25r-a

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