第14話 方針
原作ではこのドラゴンは俺を見るやな否や襲ってくる。
これには理由があった。
俺にはかつてドラゴンスレイヤーと呼ばれた先祖がいて、このドラゴンにはその事がわかっていたからだ。(物語終盤に明かされる設定)
「さぁ、こい。お前の戦うべき相手がここにいるぞ、ドラゴン」
「こんなドラゴンと因縁があるなんて、本当に底知れぬ方だ」
だが、ドラゴンは俺には構わずに空高く登っていく。
(ん?)
俺には目もくれず、とある方向を見た。
それは俺が普段訓練に使っている森がある場所。
そしてそこは今師匠たちがいる場所のはずだ。
(なぜ、そちらを見る?)
このドラゴンはドラゴンスレイヤーの血が流れる人間が分かる。
この程度の距離で見落とすわけが……はっ、もしかして。
「おい、セバス」
「なんでしょう?」
「俺の父親の職業はなんだ?」
「なぜそれを今ここで聞くのか分かりませんが、農家です」
そのとき、俺の背筋を稲妻が駆け抜けた。
今まで違和感がいくつかあった。それら全てのピースがパズルのように繋がった。
「ははっ……なるほどな。そういうことか」
セバスが不思議そうに俺を見つめる。
俺は空を仰いだ。そこには遠ざかる竜影があった。
(どういうことかは分からない。でもこの世界の主人公は俺じゃない。
この世界の本当の主人公はおそらくカイルだろう)
現状、俺が何者なのかは分からない。
悪役かもしれないし、モブなのかもしれない。
「まぁ俺が誰だろうとどうでもいい」
やることは変わらないんだから。
今は目の前のドラゴンを倒す。ただそれだけだ。
——だが。
ドラゴンは俺に襲いかかることなく、今もこの場を離れようとしている。
先ほどから変わらずに鋭い瞳が向けられたのは俺がいつも訓練している森。
ドラゴンは口元に炎を蓄え始めた。
灼熱の息吹が吐き出され、森一帯を焼き払おうとしているのだろう。
俺は少し離れた場所にある川へ向かって両腕を突き出した。
魔力が奔流し、水面が轟音と共に逆巻く。
「舞い上がれ。水柱」
水が竜巻のごとく立ち昇り、ドラゴンのブレスと相殺する。それだけにとどまらず今も水流がドラゴンを襲う。
「セバス、道は俺が作った。お前が得意とする雷魔法、最大出力でぶつけてやれ」
「かしこまりました」
俺の声に応じ、セバスが無詠唱で魔法を発動。
雷光が奔り、水流を伝ってドラゴンの全身を駆け上がった。
「グオオオオオッ!!」
雷撃が鱗を焼き、巨躯が痙攣する。
ダメージもかなり通りやすい。絶好の隙だ。
「【ファイアボール】」
極限まで圧縮された火球が唸りを上げ、雷で開いた傷口へと叩き込まれた。
次の瞬間——。
ボゴォォォン!!!
凄まじい爆音。
竜の体内で血液が沸騰し、肉が破裂する。
灼熱に耐えられず、巨躯は内側から爆散した。
黒煙と肉片が空を覆い、やがて大地に降り注いでいく。
空にはもはや竜影はなく、残滓だけが虚空に漂っている。
「ふぅ……」
勝った。確かに、この手で。いくつか気になったことはあるけど、方針に変わりはない。なんならストーリーを気にする必要はなくなったし動きやすくなったくらいだろう。
(俺が主人公じゃない? そんなのどうだっていい)
構わない。名がどうであれ、血がどうであれ。
やるべきことは変わらない。
強くなって目の前の敵を倒す。それだけだ。目指すのは世界最強。
「ぼっちゃま……ほんとうにはあなたはいったい……」
そんなセバスの声が小さく聞こえてきた。
RTAプレイヤーの俺、微妙に違う世界に転生したようだが気付かずに限界を超えたレベリングを超えて無自覚に圧倒的な最強になってしまう にこん @nicon
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