20話 みんなでハッピーを

「愛してる燕さん」


いつもなら好きって言われるのに、今晩は違った。ベッドは真っ赤な薔薇で囲まれて、妙にピンクっぽいライト。

な、なんだこの雰囲気は!?


「おう」


好きと言う言葉に安心した俺は、眠りにつこうと鳶の肩に手を回す。


「ごめん、今日は別室で寝るよ」


鳶からの拒否は初めてだった。俺がなにかしたのか?まさか俺を誘って!?

鳶に拒否られてから1週間が経った。1週間だ。まるで生きた心地がしない。

とてつもなく避けられている気がする。ま、まさか嫌われた。い、いやいや待て俺!夜になったら好きって言ってくれ…、俺が言わせてたかぁ。雉に占ってもらう事にした。雉は人の感情が"多少"分かるらしい。


「うーん、人殺しした罪悪感じゃない?」


「ははっ…!なに言ってんだよ。鳶が?殺せてもデカめのクモだけだろ!」


俺は爆笑して床を転がるが、雉は真剣そのものだった。


「マジにだよ」


「アイツがそんな事するわけねぇだろ」


「言い方が悪かったかな、王子としての役目なんだ。罪人に制裁を与えるのは」


理解していたつもりだ。ウチェッロの先代の王子は罪人170人を楽には死なせず、存分に痛ぶって殺したとされていた。罪悪感なんて最初だけだと俺も思う。だが、殺しをさせるにはいきなりすぎる。異世界に来てまだ数週間、鳶はずっと必死だった。俺は拳に力を入れて立ち上がる。


「どこ行くの?」


「決まってんだろ。鳶の書斎だ」


書斎の前には数人の使用人がいた。ここ最近、鳶が誰も書斎に入れるなと言ったからだ。俺は使用人5人を押し退けて、ラッキーな事に鍵のないドアノブに触れた。


「部屋の外が騒がしいと思ったら燕さんか、どうしたの?」


「それはお前が1番分かってんだろ」


「分からないなぁ」


「なんで黙ってた」


鳶からペンを取り上げると、鳶はバツが悪そうに目を逸らした。


「今まで真面目に生きて来た。怒られた事だって数回で、人からは「優しいね」とか「頑張り屋で偉い」っとか、悪い事をしたらその分プライドが傷つく。罪悪感とかじゃなかった。あの時、きっと私はプライドが傷ついたんだ。だから合わせる顔がなかった。罪悪感ならまだよかった」


真面目に生きると生きづらいとは良く言ったもので、鳶はいい子を演じすぎた。


「俺は別に否定してるわけじゃねぇ。殺しは王子としての仕事だと思ってるからな。でも、怒ってんだぞ。お前が本音を出さねぇから。分かるか?プライドが傷つかねぇようにプライドは高く持て、自分が正しいと思え。ここは異世界だ。お前を縛るものはない」


「ごめん、そうだよね。王子が弱気でどうするんだ!」


自分の頬を両手でベチンっと叩く鳶。


「分りゃあいい。そーいや、なんだ…。忘れてたんだが、お、俺もお前が好きだからな!」


「姫が燕さんで良かった、私もだよ」


よく頑張ってるよ、お前は。

見知らぬ不良と異世界で。


ー12年後ー


俺の名前は隼(はやぶさ)。今年で9歳になる。

さっきまで学校のいけすかない野郎と喧嘩をしていた。俺の両親をバカにしたから。


「隼様また喧嘩ばかり!姫に怒られてしまいますよ?」


「うっせ、ババア!」


中指を立てる。このメイド女、ベニヒワは他のメイドよりちょっとは若いが、俺の母上より年上だからババアだ。


「まあまあ、いいんじゃないかな。育ち盛りというヤツだよ。礼儀は自然と身につくものだしね。ごめんねベニヒワ」


「母上!」


嬉しさのあまり抱きつく。


「今日は何人と喧嘩したの?」


「5人です!主に腹を殴ってやりました!」


母上は剣術に長けている。オオワシとミサゴの指導で磨き上げたらしい。俺もやってるけど結構、難しい。それと今日の喧嘩相手5人は少ない。なぜなら、父上には15人の屈強な男との喧嘩に勝ったという伝説があるからだ。俺はまだまだ未熟ものだ。


「へー、気になる会話してんなぁ?」


父上が手をコキコキさせて近づいて来た。隣には偉大なる占い師、雉がいる。きっと告げ口したんだな!ずるいヤツめ!


「天気がいいよねって」


「はい、嘘。天気の話なんか、全然してないよぉ燕」


母上は父上に頭が上がらない、王子である母上の方が立場は上なのに。父上が母上に裸絞をする、さすが父上だ。


「ぐっ、ギブギブ」


「喧嘩はよくねぇぞ、隼。辞めろって言ってんだろ。大体、鳶テメェは甘すぎだ。教育にならねぇ」


「父上!俺は、男としてのけじめをつけていたんです。単なる喧嘩じゃありません!」


「なら、バレないようにやれ。学校から連絡くんの面倒なんだよ」


「はい!」


父上が母上の手を取り立ち上がる。いつも喧嘩してるようだけど、本当は仲が良くて愛し合っているんだ。


「夜、ティラミス食ってせいぜい用意しとくんだな」


「隼の前でなんて事を!ダメだよ燕さん!」


俺は家族が大好きだ。ベニヒワもオオワシもミサゴも。

俺は勉強のために部屋に戻った。部屋に入ると尻尾を立てたフィーリオが、足元に擦り寄って来る。


「ガゥルル」


俺が3歳の頃まで母ライオンのマードレがいたけど、もういない。フィーリオはマードレの息子だ。母上が俺に世話して欲しいと言ったから、世話をしている。俺の大好きな相棒。

この城はハッピーで溢れてる。

俺は静かにウチェッロ歴史本を開いた。本を開くと一枚の紙が落ちてくる。


「過去の転生者リスト?」


                 ー完ー

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見知らぬ不良と異世界で 億楼 @opah

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