19話 ドキドキ
数日前、雉さんに告白された。
気づいた事が一つある。私、燕さんに好きって言われた事がない。燕さんを安心させるために私は毎晩好きだと言ってるけど、燕さんから言われた事がない。燕さんが欲しいのは同じ転生者としての安心だけなのだろうか。剣術の最中にモヤモヤしてきたな。
「ご主人様、何か考え事ですか?すごいアホ面だ」
「黙れぃミサゴ」
「相談事なら、私たちが聞きますが」
オオワシさんは優しい。木陰に座って三者面談だ。木陰は涼しく、休憩にも最適。
「燕さんに好きって言われた事ないんです。私は言ってるのに」
「しょうもない、俺は1人で素振りしときますね。オオワシさんよろです」
良くも悪くも上下関係があまりしっかりしてない、ミサゴは特に。私はマウンティングのおかげで多少、立場が上がった。オオワシさんもミサゴに勝てそうだけどな。
「言い方の問題では?一度、私に言ってみて下さい。無理強いはしませんけど」
「分かりました、好きだよ」
愛してるよゲームみたいだ。オオワシさん相手だと照れる。燕さんには照れないのに。私はオオワシさんの事が好きなのか?いや、好きとは違う。
「愛を伝えてみてはどうでしょうか。さぁ、どうぞ」
「愛してます」
「私もです鳶王子」
優しく頬に触れられる。まるで家族みたいに。私はおじいちゃんに会った事がないけど、もしいたら、こんな感じなんだろうな。
「来て欲しい所があるんです」
手を引かれて城の地下室に向かう。立ち入り禁止の場所だ。嫌な匂いがする、なんと言うか、血生臭い。ドアが開くと足元に血が流れて来た。
部屋に入ると、足を切り落とされている人間がいた。見覚えがある。燕さんがフルーツとレア肉を買った、店の人だ。
「あの肉は、本来ならば違法。ライオンの肉でございます。昔は合法で、私も一度食べた事がありまして、毒味の際にピンと来ました。10年前までウチェッロには6万以上のライオンがいましたが、今はマードレを含む5頭のみ。今は重罪なんですよ」
「ライオンは肉食だからライオン肉は美味しくない。なぜ売るんだ?」
生々しい光景にツーハンデット・ソードを持つ手が震えるが、なんとか冷静を装う。
「ライオンってだけで高く売れるからだよ!レア肉って看板は、お前らが来るからそうしただけだ!普段はライオン肉で売ってる!売れるからなぁ!」
「さあ、どうしますか」
どうって、十分に罰は受けているし。
「アンタは優しい王子だろ!?俺を助けてくれ!」
「王子としての役目です、殺しなさい」
「私は人殺しなんか」
人殺しなんかしたら犯罪者と同じだ。私は絶対に人殺しをしたくない。清く正しいままに生きていたい。汚れたくない。
「アナタがやるんです、アナタがやらなければ。これは人殺しではありません」
これは役目、王子としての。目をギュッと閉じて、男の心臓に刃を突き立てた。緊張で手を滑らせて刃がズブっと深く男を刺す。
「ぎゃぁーー!!!」
叫び声が部屋全体に響いて、脳内にこびりつく。死体を蹴って退かすオオワシさん。
「はーっ、はーっ、あっ、ああっ」
情けなく腰が抜けてしまった。小さい虫は抵抗しないから平気で殺せてしまう。抵抗する人間は無理だ。せめて抵抗しないようにやれば、少ない罪悪感で殺せる。
「美しいですよ、王子として完璧だ」
優しく手を差し出されると、私はその手を受け取った。
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