18話 有能占い師

「って事がありまして、ガットを満喫できなかったんだよ」


城に帰り、俺は鳶を正座させていた。人混みに紛れたと思ったら、数十分後にガット全体のアナウンスで、鳶の名があがったからだ。迷子のお知らせでな。威厳もクソもねぇ。


「だから俺を連れて行けばよかったのにぃ。2人が頑なに断るからさぁ」


俺と雉は、椅子に座って優雅にお茶中だ。いつもなら鳶を輪に入れていたが、デカめの反省が必要だろ。鳶がマカロンを物欲しそうな目で見ているので、


「欲しいか?」


鳶の口元まで近づける。


「くれるの!?」


あげねぇよバーカ。一口でマカロンを食べる。抹茶味は美味い。またベニヒワに作らせるか。ドアの前で待機させてるからな。


「可哀想、俺のあげようかぁ」


「甘やかすなよ」


「酷いなぁ」


「雉さん。雉さんがマカロンを吐き戻したら私が貰うね」


なんだよそれ。実質、口移しみてぇなもんだろ!雉のゲロ食べるなんざぁ、死んでもさせねぇぜ!俺のゲロ食えや!


「やめとけ、性格うつるぞ」


「悪い性格じゃないと思うけど。証拠にマードレが懐いてる。マードレは落ち着いてる人が好きなんだ、オオワシさんとかもね」


俺にはあからさまに態度の悪いあのマードレが?こりゃ聞き捨てなんねぇな。俺に落ち着きがないみたいな言いぐさだ。


「えっ、えぇ。きゃ、照れちゃう」


雉が両手で顔を隠している。気色悪りぃ、男なのに乙女ぶんなよ。


「やだぁ、顔見たい」


背筋を伸ばして雉の顔を覗こうとする鳶。


「おいゴラ。白昼堂々浮気か?王子ぃ」


手をコキコキ鳴らす。

喧嘩前とか鳶にプロレス技をやる時にやる、ルーティン?みたいなもんだ。

鳶は悟った顔をして勢いよく立ち上がった。


「お茶!取ってくるね!」


逃げたか。逃げ足が早くなりやがって。


「逃げたね」


マカロン美味ぇ。


「俺さ鳶ちゃんの事、好き。だから告白して来ようと思うんだ」


「ぶっ!」


口に入れたマカロンを、全部、雉の顔面にぶち撒ける。


「は、はぁ!?舐めてんのかテメェ!」


「いいや、珍しく本気」


深海みたいな目にチラチラ光が見えた。コイツはマジだ。


「占いで分かるだろ」


「確かに、でもさ。直接答えを聞くのが、告白の醍醐味じゃない?」


雉は昔と変わった事がある。人の話を聞くようになった事だ。本当はコイツって分からなくてなるぐらい、顔面をぐちゃぐちゃにしてやりてぇが、俺も姫だ。野暮な事はしねぇ。鳶がOKしたらするけどな。


「じゃあ行って来い。んで振られろ」


「本心出てるってじゃぁん」


鳶の後を追って雉が部屋を出て行く。

よし、振られろ振られろ振られろ振られろ振られろ振られろ振られろ振られろ振られろ。


「振られたぁ!」


「しゃあ!」


「ザマァでぇす!!」


俺はガッツポーズをして、そのまま雉の腹に拳を入れる。ベニヒワがドアの前でバタバタ暴れているのが分かった。


「うがっ、慰めてよぉ。しかも振り方が優しすぎてヘコむぅ」


「一応、聞いてやるから。座れって」


鼻水を垂らしながら椅子に座る雉。ハンカチ持っとけよ、俺でも常に持ってるぞ。


「好きって言ったら、「私は燕さんの幸せを考えたいんだ。もちろん雉さんの幸せも大事だけど。私に雉さんは勿体無いよ」って、大好きなのにぃ!」


随分ハッキリしてるな、最初と比べれば、鳶は王子らしくなってる。


「燕を殺さずに俺が自殺しとけばよかったぁ、考えたけどしなかったんだよなぁ」


俺は泣き崩れる雉に、関節技の腕挫十字固をして、鳶の成長に頷いた。


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