17話 誘拐

執務が終わり、私は浮かれて隣国の『ガット』を燕さんと散策していた。


「あのフルーツ売ってた店のヤツ、行方不明になったらしいぜ。知ってたか?」


「えっ、本当?物騒だね。でも違法の肉売ってたんでしょ。あのレア肉、危ないってオオワシさんが言ってたよ」


肉まんを頬張りながら、ガットの街を見渡す。美味しいな。


「はぁ、危機感働けよ」


「んわっ」


頬をつねられる。前までは痛くて、ちょっと嫌だったけど、久々にこういうのも悪くない。これは成長だろうか。


「餅かテメェは」


しばらくモニモニされてやっと解放してくれた。そして本屋に来た。中古は嫌なので、新品しか売っていない本屋だ。新しい匂いに、つい深呼吸してしまう。


「やあ、キミ可愛いねぇ」


髭が生えた中年の男性がこちらに向かって歩いてくる。いやらしい目つきで鳥肌が立つ。


「燕さんが可愛いのは、周知の事実だ!口説くなら他を当たるんだな」


燕さんを庇うように、高圧的に前に立つ。


「いや、どう見ても俺じゃなくて」


「燕さん移動しよう」


「お前は俺がどう見てんだよ」


どうって、ちょっぴり暴力的な寂しがり屋のか弱い姫かな。


「待て、やっぱり言うな」


耳を赤くして顔を背けながら、私の腹に蹴りを入れてくる。乙女だなぁ。


「うぐぅっ」


そのまま街をブラブラ歩いていると。人混みに呑まれて、燕さんを完全に見失ってしまった。俗に言う迷子ってヤツだ。心配でたまらない。すぐに見つけ出さなくては。


「燕姫だ、ラッキー」


後ろから首に何かを刺されて、気絶した。

目を覚ますと、視界がぼんやりしていてハッキリ見えるようになるまで数秒かかった。縄で手足を縛られている。


「お目覚めかな姫?」


「誰だ貴様」


カッコつけちゃったりして。アレと一緒だ。突然、家に強盗が来たらどう対処するか妄想するアレ。実はちゃっかり妄想していた!


「なにをする気だ」


ツーハンデット・ソードは当たり前に取り上げられているか…。だけど、もしもの時を考えて小型ナイフ2本をポケットに入れている。

用心深くてよかった。


「鳶王子に身代金を要求する」



「理解ができない」


「だぁかぁら!鳶王子に身代金を要求すんだよ!溺愛する燕姫を、辱められたくないなら金よこせってな!」


「鳶王子は私だぞ?」


隣国だから情報が薄いのか。それともこの人が単にウチェッロに興味がないのか。それにしても、誘拐する相手を間違えるなんて恥ずかしいヤツだな。


「は、はぁ!?そんなわけ!」


ポケットから写真を取り出し、私の顔と見比べている。


「そんなわけあるな、ゴリラじゃねぇ」


小型ナイフでバレないように手足の縄を切る。まったくハラハラしない。むしろスリルすら感じる。

燕さんの寝顔に触れる時のあの感覚。燕さんが起きると、最悪プロレス技のジャーマン・スープレックスを仕掛けられてしまう。アレを仕掛けられると、燕さんの首がまあまあ心配になる。


「貴様が慌てている間に、私は縄を切ってツーハンデット・ソードを取り返した訳だが。どうする?」


「ま、待ってくれ!俺に武器はない!降参するから!なっ?なっ?」


どうやら嘘はついていないらしい。私の首に刺した、注射みたいなものは気になるけど。ツーハンデット・ソードを腰にかける。


「いいだろう、じゃあ案内しろ。私を迷子センターに案内するんだ…!」

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