番外 ぼくはワシ

『ぼくはワシ。

大きくて、こわくて、とてもするどい爪をもっている。だれもぼくに近づかない。

こどくのワシ。

ぼくはだれかと友だちになりたくて、旅にでた。夜空はくらくてこわい。

星をめじるしに進む。

みんなねていて静かな夜。

ある日、ぼくはぼくに似たトビと出会った。ぼくと同じするどい爪で枝にとまっていたんだ。ぼくはトビの隣にとまった。


「きみも旅をしているの?」


「そうだよ。わたしも旅をしているの。」


ぼくたちは仲良くなった。

一緒に水を飲んだり、ごはんを分け合ったり、空で追いかけっこをした。くらくて冷たい毎日から、明るくて楽しいキラキラした毎日にかわった。


「ねえ、このまま2人でくらさない?ぼくらだけの世界にしてしまおう。ぼくらは似ている。きっと家族なんだよ。」


「わたしはトビできみはワシ、似ているようでまるで違う。わたしときみは家族じゃない。世界にはいろんなトリがいるんだ。わたしはそれを見てみたい。」


ぼくはこの日、初めて憎しみを知った。

きみなんか、蛇に飲み込まれてしまえばいいのに。ぼくは空高く飛ぶきみを、開いた瞳孔で見上げていた。

ぼくはワシ。恐怖のワシ。』



私はオオワシ・グエリエロ。

またの名を流川大鷲。


「オオワシさん、この絵本の続きってないんですか?」


「25年ほど前の物ですから」


鳶王子は現在執務で書斎に籠りっぱなしで、こうして絵本を読まれているのです。落ち着くんだとか。

私が25年前に書いた絵本『ぼくはワシ』を気に入って下さっているようです。

そうそう、私には秘密があります。皆様にだけ特別に教えましょう。

私、鳶の祖父なんです。残念ながら鳶が生まれる前に病気で死んでしまいました。酒飲みだったので無理もありません。そして、25年前まで王子をしていました。当時の占い師によって、私の鳶という孫が王子になる事を知り、王子の座から降りたのです。私には荷が重すぎた。

『ぼくはワシ』は私が鳶を想像して書いた絵本。これでも家族愛を語ったものになります。


「私が続き書いちゃおっかなぁ」


「いいですね。どんな続きを?」


「えーっと、ワシがトビを食べちゃうとか。ワシの方が大きいですし」


ユニークな考えでつい頬が緩んでしまう。誰だって実の孫には甘いはずです。


「蛇ではなくワシがですか」


「だって、他の生き物に食べられちゃうくらいなら。自分が食べた方がいいじゃないですか。私ならそうしますよ」


私と鳶は似ている。

普段の優しさは、優しさではなく。

ただ他人事なだけ。ワシとトビは親戚ですから、同類の本質は分かるんです。


「私が続きを書くならこうですね。トビはこの後、世界の恐ろしさを知り、ワシと共に静かに楽しく暮らすのでした」


「いいですね、それ。ウィンウィンだ」


「そうでしょう?」


鳶王子の大好きなブレンド紅茶を淹れる。

今はただ、成長を見守るだけで充分です。いつか気づいてくれる日を楽しみに。私の唯一。


「では、私は別の仕事がありますので。失礼します。」


「はい!頑張ります!」


はぁ、愛らしい。目に入れても痛くない。

午後になると私は地下室に向かいます。先日、街にネズミが紛れ込んでいましたから。捕まえて籠に閉じ込めてしまったんです。


「ん"ー!ん''ー!」


ネズミは足が速いので、足を切り落としました。鳴き声もうるさかったので、口に布を詰めて鳴けないように。仕方ないので取ってあげましょう。


「お"れが…!な"にじだっで言うんだ…!」

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