第16話 雉は飛べるらしい

鳶、ちょー可愛かったぁ。俺はベッドでジタバタしていた。

頭突きした後、媚薬効果を切らすために薬を飲ませた。解毒剤があったから。喉奥まで突っ込むのに苦労したぜ。

あと3日、書斎に籠りっぱなしの鳶。俺もなにか頑張らなきゃな。


「ゲームしなぁい?」


俺と鳶の部屋になぜか雉がいる。最悪だ。


「ベッドに乗るな。せい、せ、なんだったか王子と姫の寝床だぞ」


「えっ、聖地って言おうとしたよね。聖地じゃないし」


ああ、聖地か。


「ゲームなんかしてる暇あんのかよ。お前の役目は国民を占う事だろ。サボんな」


「休憩時間だって、大体ここブラックなんだよなぁ」


占いの本をパラパラ捲りながら、身体を横にしている。まったく変わらねぇな。気怠げなところも、気分屋でうぜぇところも。俺はふと考える。


「そう言えばなんでお前、死んだんだ」


「わぁ、ストレェトォ!」


楽しそうに拍手をしながらベッドを転がる。マジで洗濯しよ。ベニヒワに頼むか。


「特別に教えてあげる。俺も殺されたんだぁ。誰にだと思う?」


「東高の髙橋。アイツ、お前の性格が好きじゃなかったらしいぜ」


「知らなかったんだけど。俺って結構、嫌われてる…」


「相当な」


落ち込むぐらいなら性格直せよ。そう簡単には直らねぇか。


「髙橋じゃないでーす。正解言っていい?言っちゃうよ?」


「早く言えよ、うぜぇ!」


「燕のは・は・お・や♡燕の葬式の時に、自白したら首絞められちゃった。女だからって舐めてたよねー」


俺の、アイツならやるな。


「毒親だっただろ?燕が可愛くて死んだのが惜しい…って言うより、父親に似た愛し合える人間がいなくなって最悪って感じ。俺的には、人も殺せたし殺された、いい経験になったなぁ」


真っ黒で光のない目。

ジッと見つめ合っていると分からなくなってくる。深海みたいで何が起きるか分からない不気味さがあった。


「燕も可哀想だよねぇ。身体しか愛されてないの。かく言う俺も、燕と同類だけどぉ。鳶ちゃんにはもう"愛された"のかな?」


拳を出した。俺の事はどうだっていい。鳶の侮辱に感じたからだ。鳶は俺の身体なんかどうでもいい。その証拠に初夜で全裸を見せた時に、無反応だったから。男自体に興味がないのか、俺に興味がないのか。


「うっ、手加減丸見え」


「鳶を悪く言うなよ」


「はいはい」


俺と雉はゲームと言う名の、根性試しをしていた。鼻毛抜きだ。ベニヒワに頼んで抜いてもらう。ルールは簡単で、声を出したら負けだ。前にやった時は負けたが、今なら勝てる気がする。


「い、いきますよ。燕様」


ピンセットを持ったベニヒワが、震えた声で言う。


「早くしろ」


「失礼します!!!」


鼻の中でブチっと音がする。危ねぇ。声に出るところだったぜ。


「やるねぇ」


「雉様もいきますよ!」


「あ"!?」


俺の勝ちだ。ははぁ!


「2本抜かれたんだけど!?今のなし!」


「1本も2本も変わんねぇだろ」


俺と雉がワイワイやっているとジイさんが来た。呆れた表情をしている。


「燕姫。…なにをしているんですか?」


「根性試しの鼻毛抜きだ」


「下品です」


雉が小声で俺に話しかける。


「なぁ、先代の王子の話を知ってる?」


なんで今なんだ。


「ウチェッロの歴史本を読んでみるといい。先代の王子の事が、よく書かれてる」


「先代の王子…か」


「まったく、少しは私の話を聞いて下さい」

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