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一週間後。

いつもの店内である手紙を見ていたら、そこへ見覚えのあるお客さんがやって来た。


「こんにちはー」

「!」


声がした方に目を遣ると、そこに居たのは一週間ほど前にそこの山へ自殺をしに入ろうとしていたあの女性だった。

女性はこの前の男性を連れていたけど、知らないフリをして「そちらの方は?」と私が問いかけると、その女性が言う。


「あ、こちらはこの前話した例の好きな人です。ほら、10年程くらい片想いしてたけど、明日結婚するって言ってた…」

「ああ、その男がそうなのかい。じゃあ、今一緒にいるということは…」

「はい。あの指輪のおかげで上手くいきました。ありがとうございます」


女性客は本当にありがたそうにそう言うが、あの指輪の効果はただの「縁結び」ではなく、告白に対する勇気を与えてくれるのがメインの指輪だ。

実際に相手の想いを強制することまでは特化していないが、一緒にいるということは元は両想いだったのだろう。

告白が成功すれば、そこからはもう2人の関係が壊れることはない。

相手の男にはめた指輪は、女性が告白するまで外せない仕組みだったのだ。

多少驚かせてしまったようだが、いまさら真実を話さなくてもいいだろう。


私がそう思っていたら、男性が言った。


「初めまして。あなたのおかげで、前の女性との結婚を円満に破棄することができました。なんか、相手の女性も実は他に好きな人がいて、その人と会えなくなっていたそうなんですが、最近たまたま再会したとかで、それで…」

「おや、そうなのかい。それはよかった。じゃあ今日は2人のデートだね」

「ええまぁ。でもその前にこのお店の店員さんにはお礼を言いたいって彼女が言っていたもので」


男性がそう言うと、隣に立つその女性が言う。


「本当にありがとうございました。おばあさんがいなかったら私、今すでにここにいません」

「そんなことは言っちゃいけないよ。人生を諦めるくらいだったら、何にでも挑戦してみなさい。私はそのサポートをしただけさ」


私がそう言うと、女性が「ハイ。もう二度としません」と幸せそうに微笑む。

…今回は上手くいったみたいで良かったね。

その後2人はしばらく店内を物色していたけれど、やがて「また来ます」と店を後にした。


………それにしても。


再び独りになった店内で、私はさっきの「手紙」に目を戻す。

その手紙のタイトルには、【魔女試験のご案内】と記されていた。


「困ったねぇこれは……」


独り言のようにそう呟くと、私は深く深く息を吐いた。

この試験を受けて合格したら、私はこの世界を出なければならないのだ────…。








☆【えんぴつ編】(ラスト)に続く───…!!

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魔女が営む雑貨屋さん【指輪編】 みららぐ @misamisa21

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