メンソー__

アキツ

メンソー__

 部活終わり、ダラダラと流れ続ける汗を拭く。ひんやりとした冷感が心地よい、汗拭きシート。

 

 ただ、残念なのは、汗拭きとしてはロクに使えないと言う点くらいか。惜しいとこで残念なやつ。

 

「いやーあっちいなー。汗止まんねえよ」

 

「貸すよ」

 

「サンキュ」

 

 一枚手渡す。

 

「拭き終わったから返すわ」

 

「要らねえよ。持って帰れって」

 

 そんなこんなで一通り拭き終わり、どこに捨てようかと悩む。意外と悩みの種になる。悩んだ末に、ポケットに収まった。

 

 友達と別れ駅に向かう。傾きかけた日が肌を焼く。駅につき電車を待つ間も、じわじわと汗がにじむ。ポケットの中では着々とシートの水分がにじむ。もう、すっかり忘れられてしまっている。

 

 電車が着き、いそいそと乗り込む。ふうと一息。冷房が当たり、汗が冷たくなった。

 

 発車した。荷物が多くて吊り革をつかめない。仕方がないから、両足で踏ん張る。

 

 陸上をやっているおかげでよろめいたりはしない。ただ、余計に暑くなった。

 

 暑い。服をパタパタと仰ぎたいという欲求を抑える。電車は苦手だ。常に誰かが見ているような、そんな息苦しさがある。ガサガサならないよう、荷物を持ち替え、吊り革を掴んだ。

 

 電車が止まり、扉が開く。むあっとした熱気が直撃する。扉が閉まり、再び冷気が空間を満たす。襟を伸ばし、いまだに熱を帯びた体に冷気を当てる。目立たないよう、じっとする。

 

 しばらくして、スーっと爽やかな匂いが漂ってきた。ポケットの中でじめじめとした、忘れ去られた汗拭きシート。

 

 自分は目立たぬよう溶け込もうとする中、それは主張を強める。もうすでに冷房の風に乗り、車内を巡り巡った後なのかもしれない。

 

 不快に思われているかも。そう思うと止まらない。もしかすると気にしすぎなのかもしれない。それはわかっているが、どうも落ち着かない。また、汗をかく。 

 

 パタパタ。ついにやってしまった。匂いとか気にならないかな。また、メンソールが香る。その爽快な匂いに包まれて、思考も冷える。

 

 メンソーレ? メンソール? どっちだっけ。いつも使っているのに、いつも見ているのに、忘れられる。名前も、存在も。それでも、その冷たい匂いは鼻を刺す。その爽快な匂いに包まれる。

 

 樹脂の匂い、化粧の匂い、コーラの匂い。

 

 それら全てを覆い隠すのは、ハッカの匂い。やがて、調和し合い電車の匂いと成る。

 

 降車駅に着く。ポケットから取り出したシートは、汗で少し黄色く、生ぬるくなっていた。


 ゴミ箱に放り込む。

 

 家に帰ったら、調べよう。


 大股で歩き出す。

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メンソー__ アキツ @wakiwakisanbo

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