お月様カレー

我孫子発

お月様カレー

「月が〜出た出たぁ〜月が出た〜やホイホイ」

男は上機嫌で住んでるアパートまでの道をフラフラ歩いていた

「………」

男は空を見あげた

「ツキなんて出ちゃいねーでやんの…」

男はハァっとため息をついた


どうやら空元気で、上機嫌では無かったらしい


「久々に集まった友人達は結婚だ、昇進だ、起業だ、転職だと人生プランを充実させてるってのによお」


男の目は次第に赤く潤んでいく

「うぅっ生きてるだけでいっぱいいっぱいなんだよ俺はよお…ううっ…」


ふわ~んとカレーのいい匂いがする

ぐうううううぅ

男の腹の虫も泣く。落ち込んでても腹は減る


何処かの家の夕飯の匂いかと思ったが

明かりがついた喫茶店が目に入った

匂いはここからだった


店前に置かれた黒板のメニューには「お月様カレー始めました」と書かれていた


カランカラン…


店のドアを開け、店主と思われる男性に

「やってますか?」と声を掛ける

「ええ、メニューは少ないですが、どうぞこちらのお席へ」

促された革張りのソファの席に座る


夜のフードメニューは お月様カレー と ホットケーキ のみだった。お月様カレーと食後のドリンクにコーヒーを頼んだ


「おまたせしました。新月のお月様カレーです」

程なくして注文したカレーが運ばれて来た


黒いルーのカレーだった

丸皿にまんまるく盛られ、ライスが見えない


「くぎゅるるるぅ」


香ばしい匂いが鼻をくすぐる。たまらず腹の虫が欲しがった


しっかり炒めた小麦粉とルーのビターな香ばしさ、玉ねぎやホロホロの肉の旨味が融合したまろやかで濃厚で豊潤な味わい


それに負けないスパイスが心地よい。サフランライスの華やかな香りがルーを更に引き立てている


久し振りに味わう、手の込んだ料理に優しさすら感じ、すれた心もお腹も満たされていく感覚だった




ーーーーーーー




2週間後、男は仕事帰りに再び、お月様カレーを食べに喫茶店にやってきた


空かしたお腹に、心に、早くあの黒いカレーを流し込みたかった


しかし運ばれて来た皿をみて男は愕然とした


皿には黄色いサフランライスがまんまるく全面に盛られている


「えっえっ、えっ?」


男はサフランライスを運んできた店主を交互に見た


店主は「今日は満月のお月様カレーです」と答えた

尚も困惑する男に

「月の裏側は影になっていて暗いんです。どうぞ、月の裏側までご堪能ください」

と微笑んだ




ーーーーーーー




店を出た男は心もお腹も満たされて、今度こそ上機嫌で家路を歩いていた



「月が〜出た出たぁ〜月が出た〜らホイホイっ」






🌕️次の満月は10月7日だそうです🌝

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お月様カレー 我孫子発 @tiisaki-sumire

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ