平行線の先に ― 雨に揺れる二人の影
浅野じゅんぺい
平行線の先に ― 雨に揺れる二人の影
「それ、勝手な解釈じゃない?」
口が勝手に動いた。
梨花の瞳がわずかに揺れ、沈黙のあと、雨音だけが残る。
「……そういうとこ、ほんと無理」
ぽつりと落ちた言葉に、胸の奥がざらついた。
わかっているのに、またやってしまった。やめたいのに、止められない。
*
振り返れば、梨花はいつも折れていた。
観たかった映画も、入りたかったカフェも、彼女の予定は俺に合わせて消えた。
その優しさに苛立ち、嫉妬に似た感情が胸をざわつかせる。
「俺だったら、絶対できないのに」
──あの日。仕事でドタキャンした夜、梨花はコンビニのショートケーキを差し出した。
「せっかくだから、二人で食べようよ」
笑いながら伏せた瞳の奥に、微かな寂しさがあった。
優しさが、憎らしいほどまぶしく見えた。
*
仕事に追われ、寝不足で返信もできない日々。
焦りと劣等感が重くのしかかる。
それでも梨花は小さな歩幅で必死に合わせてくれた。
心を折りたたんで、それでも俺の隣にいた。
彼女の強さが、時に俺を惨めにする。
*
赤信号の前。梨花が濡れた前髪を耳にかけた。
「ねえ……もう、私……限界」
その言葉に、胸が締めつけられる。
赤い光が、俺の未熟さを暴くように滲んだ。
「無理に合わせなくていい。お前はお前のままでいい。俺は、それでも一緒にいたい」
震える声が、夜気に溶けた。
梨花の肩が揺れ、雨粒の中で微かに笑った。
その表情が、焼きつくほど綺麗だった。
*
信号が青に変わる。二人で歩き出す。
肩に落ちる雨は冷たく、靴の中まで染み込む。
歩幅は揃うが、心の距離はまだ少し残る。
足元の水たまりに映る影が揺れた。
形は近づいても、完全には交わらない。
それでも並んで揺れながら、夜の雨に溶けていく。
──不器用な俺たちの平行線は、
たぶん今も、同じ方向を向いている。
平行線の先に ― 雨に揺れる二人の影 浅野じゅんぺい @junpeynovel
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます