飛遊星
車で出かけられるところ。
俺自身の休みである十月の最終土曜日。
ハチに、記者がいなさそうな、追いかけてこなさそうな場所をいくつかリストアップしてもらった。
その中に都心から少し外れた花火大会が入っていた。
秋の花火大会は涼しいけれど、夜で暗いし、他人の目も気にならなさそうだ。
『花火大会があるみたいだけど、行ってみる?』
『はい!』
十月最終土曜日。午後三時。
都内で大きなリュックサックを背負った柚真を拾う。
「助手席いいですか?」
「あ、いや……念のため後部座席に座ってもらえないかな」
「すみません、お邪魔します」
記者から追われてる可能性は低いが、写真を撮られるとなると意味が違う。
今のマネージャーにだって、本音のところは話せていない。
「みつるさんの厚意には甘えられないと思って、一応いろいろ持ってきたんですけど、あの、その」
後部座席といっても、運転席の真後ろには荷物を積んだ。
時間も遅いし、念のためと思い買い込んでしまった結果だ。
「ごめん、荷物多いよな」
ある程度、座る場所が指定されていれば、話がしやすいと思った。
運転席と後部座席であっても。
「いえ、ありがとうございます」
「そういえば、負けたらなんて言おうと思ってたの?」
「あっ、その話、ですか……ゲームが好きすぎて引かれてないかなと思って、その……次も真剣にゲームで遊べるならまたこういう場に来て欲しい、会って欲しいですと伝えるつもりでした。えっと、二人きりじゃなくて、その……複数人の場で」
「あ、っと、じゃあ、俺たち二人で似たようなことを考えてたの?」
運転をしているからか、どこか冷静に切り返せる俺がいた。
「そ、そうですね。た、たぶんですけど。初めてお会いしたときは、みつるさんとハチさんがお付き合いしてると思いこんでて
「そんなことがあったんだ」
「お二人で帰られたから」
「あっ、本当にあの、久しぶりに会ったからただ話がしたかったんだ。俺を、少しでもオープンにしていい場所まで連れ出してくれてありがとう、って伝えたかったから」
「そうだったんですね」
拓樹が、トーナメントのリクエストを却下してくれて良かった。
その後の話題は、無難な現状報告が中心になる。
日が落ちて、高速道路からも下りると、花火大会の話題に切り替わった。
「花火を誰かと一緒に見るの久しぶりですよ」
「あ、俺もそうかも」
柚真からの何気ない言葉にすっと背筋が伸びた。
駐車場に車を入れて、帽子を深く被り直す。
それから荷物を持ち出し、花火の観覧場所となる公園へと向かった。
記者はいなさそうだが、けっこうお客さんが多い花火大会なんだな。
到着時間が遅かったからか、いい場所はすでに取られている。
すぐに移動できそうな狭い場所にキャンプ用の折りたたみ椅子を二脚置いた。
「良かったら食べませんか? スイートポテトとアップルパイを作ってきたんです」
「ほんと? 食べるよ」
打ち上がり始めた花火の明かりを頼りに、柚真手作りのお菓子を手にした。
ほんのり甘い秋の味がする。
最初はぎこちなかった二人だけの会話が、すぐ滑らかに落ち着いたのはたぶん拓樹さんとの企画で会っていたからだ。
「花火、綺麗ですね」
「うん。見たことない花火もたくさん上がってる」
「カラフルですね。夜の虹みたいです。みつるさん、知ってますか」
「あ!」
ハートの形の花火が、象るように一周した。
それは、柚真がしはじめた夜の虹みたいなカラフルさがあった。
「え、あ……今の花火って進化しているんですね。ピンクとか水色とかじゃなくって。二人でこういう花火が見れて嬉しいです」
一時間ほど経過して、飲み物も食べ物も少なくなってきた。
「そろそろ帰ろうか」
「え、もっと一緒にいたいです。ダメですか」
「もちろんそれは俺も同じつもり。でも、週刊誌のとか気にしないといけないから」
こんなことは話すつもりじゃなかった。
「柚真を守りたい。ダメかな?」
「じゃ、じゃあ二人きりでいたって記念になる写真を撮影したいです。プライベート用と、SNSに投稿する用の。みつるさんの顔は出さないので」
「それ、俺も欲しいな」
「SNS用は花火の明かりに一瞬照らされる二脚の椅子だけでもいいんです」
「いいね、それ」
投稿用の写真を選ぼうとすると初めて会ったときみたいに自然と体がくっつく。
「投稿したら、ハグしていい? 東京に戻ったら、できないから」
「はい」
密着させると体のあたたかさを感じた。
美しい光に照らされる。
相変わらず空気は冷たいが、今はあたたかい光が隣にいてくれる。
了
カラフル・サイト 川上水穏 @kawakami_mion
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