しのつぎ
蓮村 遼
しりとりしよ?
田んぼと家しかない田舎道。
学校までも遠くて、登下校は毎日退屈で仕方がない。時々、クマとかシカとか出たから気をつけなさいって先生が言うからその時は緊張するけど、それも時々。今まで会ったことないし。
とにかく、毎日1時間もとぼとぼ歩くのは刺激も何もなく暇だ。
「ねぇ栞里ちゃん!暇だから『しりとり』しようよ〜」
隣の子が話しかけてくる。
「うーん…、そうだね〜。どうせ暇だしやろっか」
「じゃあ私からね!『しりとり』!『り』から!栞里ちゃん」
「リンゴ」
「ごま」
「マラカス」
「炭」
「ミント」
「とかげ」
「ゲーム」
「虫籠」
「ゴリラ」
ただただ『しりとり』が続いてく。
その間、私たちは並んで歩く。
あれ?私、毎日1人で学校行ってなかったっけ?
近所に私ぐらいの女の子っていたっけ?
この子、だれだっけ?
急に心臓がドキドキしてくる。
100m走をした後みたいに、急に胸が苦しくなって息がしづらくなってきた。
隣が見れない。
どんな格好だった?髪型は?身長は?
かおは?見たっけ?
『しりとり』は一度も止まることなく進んでいく。
いや、止めちゃいけない気がする。繋がなきゃ。
「枯れ葉」
「はし」
隣の女の子がピタリと立ち止まる。
私も合わせて止まってしまった。
女の子を見ることはできないけど、沈黙が気まずくて声をかけた。
「ね、ねぇ…。次、『し』だよ?」
返事がない。
沈黙が続く。
私は恐る恐る女の子の方をみた。
女の子はこっちをみてた。笑ってた。
口の端っこを目の横まで引き上げて、薄い三日月みたいな口で笑ってた。
女の子はそのまましゃべった。
「『し』のつぎはないよ?だって、『死』の次は終わりなんだもん」
女の子はそういうと、私を突き飛ばした。
私の帰り道には大きな橋があった。
もう古くて、お母さん達は危ないから早く直してと偉い人達にお願いしてるって言ってた。
橋の手すりは、私の背中に当たってポキッと折れた。
落ちる間、私は女の子から目が離せなかった。
女の子は、私だった。
私がニコニコしながら私を突き飛ばした。
あの子はこれから家に帰るのかな?
私は頭と背中が痛くて、冷たくて、ぬるぬるしてて、これ以上は考えられなかった。
しのつぎ 蓮村 遼 @hasutera
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