内在神話、又は思想体系そのもの
ド最狂デューン
【神の存在証明は不可能である。普遍性ある事物は実在性を伴わない……】
私は常々思索する。空より降ってくるそれは、なんなのか。私の内に埋められている腸だとか血や肉は何処から来たのかを。そう、考えて考えて甘い誘いに抗えない。
是を書いている私は私で、是を読んでいる貴方は私? 筆者の客観性欠如が所以となって読者と書き手は一体化し、混ざっていく。
拙い。ああ、稚拙だ。優秀な人間に生まれたかった。神に乞うしかない・・・・・・。
ちっぽけで、粗悪な掘っ建て小屋に、それは在った。それはそこに在ること自体が証明であり、時系列的前後は存在しない。誕生といった明確な物質的変換は無く、揺らぎとして漂う、存在そのものであった。名前や、概念では形容しきれず、具象化された全だった。
それは、内より秘められていた理を及ぼす為に、極めて鋭利なナイフを手にした。擬人化によってそれは彼となり、腹を幾度も裂いた。皮膜をぷつりと越えて、湧き出る血を座り込む椅子の下、砂利に点々と赤を映し出した。黄色の脂肪が飛び出し、ナイフに付着する。弾かれた血液は持ち手を伝い、指に絡みつく。朧気に光を反射しながら痙攣しながら機械じみた動作で彼は何度も突き刺し、掻き乱す。最早彼は気違いだ。伸びゆく手入れのされていない浮浪者のような黒い頭髪。口元に巻かれた布地に血液が染み込む。全身を微振動させながら、髪は前後に傾く。胸部に十幾つの深い刺傷によって肺に満たされた血で呼吸が荒くなっていく。更に腹部は大きく開いて最早脂肪の黄は隠されて、腹膜を裂かれた故に腸が外部へ露出し垂れ下がる。
気違いは声を挙げていない。そこには血液の滴る音と荒く水気の混じった溺れているかのような呼吸音だけだった。
手を腹にねじ込み、幾つもの内臓をがさつに身体を震わせながらこねくり回して、取り出していった。多量の血液は清純なローブを汚していく。
気違いは絶命した。椅子に身体を大きくもたれて、頭を後部へ垂らした。程なくして腹より流れ出る血と共に気違いより現れた女体は小屋をゆっくりと回った。彼女は目元に開く穴を不思議に思って、手繰るように気違いの顔面の全体を確認した。彼女に開く穴は気違いには開いていない事に理不尽を覚えたから、目玉を抉りとった。そしてそれを自らに嵌め込んで、気違いを視認する。
ああ、憐れな。
そう思った彼女は気違いの股ぐらと自らを比較して、目玉と同じように陰茎と睾丸を切り取った。それを子宮に捩じ込み、腹を膨らした。しかし、それでも尚彼女は気違いを憂い、肉体の全てを余すことなく食した。気がつくと彼女は股より勢いよく流れた羊水に気がついた。そして中より紐を引き、彼を産んだ。
彼女は彼と繋がれたままに小屋を出て、川へ向かう。向こう岸に在る巨大な断頭台へ行き、鎖を断ち切るつもりだった。川は浅く渡ることは容易に済んだが、引き摺られた彼は呼吸を行えなかった為に肉体は不規則に糸で引っ張られているかのように硬直した。彼女はそれを確認すると断頭台へ行くことをやめた。
暫くすると陽は落ち、代わりに大きく淡く仄かに照らす機械じかけの目玉が登ってきた。沢山の蒸気を噴出し瞬きを繰り返す。彼女は恐れ、地へと潜った。そして鎖に繋がれた彼を眺めて、温もりを感じた。
上部より鳥のさえずりが耳に届いた時、彼女と彼は這い出た。彼は既に狂っていた。彼女は彼を引き、放浪する。
森林を越え、灰を越え、砂漠を越え、枯れた地へやってきた。
そこでは火を炊き、円を組む仮面達が居た。仮面達は分厚い布を一枚一枚重ねて身にまとっていた。仮面達は彼女を目撃すると途端に立ち上がり、駆け寄る。そして彼女の肉体と香りを丹念に、執拗に確認する。まず、髪を手にして鼻へと近づけてから半歩下がり顔に視点を置いてからゆっくりと下に運んだ。そして胸部の膨らみを確認したら手を前にやり入念に触った。彼女はそれらの一連の流れをただ立ちながら受け入れていたが、次第に憤りに近い恥辱の感覚を覚えて、仮面達の一人をぶった。
仮面達はその行為を仲間内で確認し起きた事実を推論した。仮面達はそれ迄感じ得なかった支配欲に困惑しながら彼女を押し倒した。彼女は暴れたが力は及ばず、両腕と脚を大きく開かれた。そして仮面達は手近にあった岩を手に取り二の腕を叩き、太腿を叩いた。何度も何度も強く叩き、彼女の四肢は分断された。それによって彼女は衰弱し、意識は昏迷した。仮面達は彼女のローブを剥いで、乳房と女性器を晒した。仮面達は彼女の陰核を引きちぎって、膣に陰茎を詰め込む。彼女はその過程で絶命した。仮面たちは彼女が手にしていたナイフを用いて腹を横に裂いた。その後、再び陰茎を膣にねじ込むと裂いた腹より露出する陰茎を目にして、笑った。暫くそれらの行為を愉しむと彼女の首を切り、腹に詰まる内臓を取り出して頭をそこに入れた。彼女は一切動かない人形となった。
仮面達は鎖を初めて確認し、その先に繋がる彼を見て再び笑った。それは彼が余りに醜く、生物的な動作をしていなかったからであった。仮面達は彼を無視して、再び火の元へ向かって円陣を組んだ。仮面達の一人が火の着いた木片を手に取って、一人に放り投げた。仮面達は熱さに苦しみ暴れるそいつを見て大いに笑った。
幾千年が過ぎ去った。人々は様々な発見と思想をしていき、数多の生命を侮辱した。初めは棒、次に刃物、次に石を詰めた袋、次に爆弾と銃。
世界はドラッグとセックス、贋物の話と熱に満ちていた。
「Sの一番イイ遣い方、知ってるか?」
「勿論。でも私はやっぱ刺すのが好き。早いし、痛みもだんだん気持ちよく感じてくるの。この先に待っているのは最高の快楽だ。って思えるもの。」
「そりゃあイイ。俺も似たようなモンだな。なァ、どうだ? こんだけSがあるんだぜ。とっとと入れてセックスでもしようぜ。」
「あはは。ヘンタイ。ちょっと待ってね。今入れるから。せーので一緒に入れましょ。あッ。」
「早いッて。俺もスグ入れるけど、シルデナフィルも飲む。」
強烈な精神の飛躍と知覚統合の上限解放を大いなる時の流れで感じる。
俺はズボンを勢いよく下ろしてから即座に目の前の女にインする。
「待ッて。まだ濡れてない。痛い。」
「知るか。クソアマめ。人形がッ、喋るなッ。」
思い切り振り切って顔面を叩く。乳房を叩く。髪の毛を引っ張る。
「ああッ。やめてッ。傷は残らないようにッ。」
女は涎を垂らし尿をだらだらと流した。身体を大きく震わせてしばし自分の腕を噛んでいた。
「痛いか? 気持ちイイか?」
俺が強く問いかけると女は首をがくがく縦に振り、目玉を上に向けた。
「あ、あ。目、目、目をッ、舐めてッ。」
俺は女の目玉を舐めまわした。塩味を滅茶な強さで感じる。聴覚が異常に研ぎ澄まされて女の膣をインアウトする艶かしい音色が全身を伝う。
女の身体が再び震える。目玉がぐりぐりと動くのを舌で感じながら、俺は思わず迸った。熱が強く放射される。愛だ! 愛だ!
「突き刺さる! お前の中に俺が入る! 帰るンだッ! 超越超越超越。」
俺と女は激しい呼吸で胸をエンジンのように動かす。俺は手で女の腹を伝った。そして子宮を感じ、そこをさすった。
「有難う・・・・・・有難う。君が居るから俺が居る。俺が居るから君が居る。俺は誰で君は誰。世界は不思議だ。こんなにも君を愛していて、痛いくらいだ。心の勃起が抑えきれないよ。」
彼女はエクスタシーで未だ身体をビクつかせていた。俺は女の中にインしながら煙草を吸った。灰は女の乳首に落ちるように、トントン。吸い終わったら女の乳首に押し付ける。
テレビの音が脳を深く貫く。余りに煩い。テレビを消す。消しても消しても消えないテレビ。手が大きく震えてくる。脳が微振動。嗚呼、小便がしたい。もウいいや。このままで。女の腹が少しずつ膨れる。
「あッ。」
女は自らの手を下腹部に持っていき、ゆっくりとさすっている。そして恍惚な表情を浮かべてから俺の首に手を回して引き寄せる。接吻を交わしてから呼吸の交換をした。俺は体重を女クッションに預ける。スキマから漏れ出る小便に気に求めることが出来ない。手の震えは今も止まらない。疲れた。しんどい。
女は顎を震わせて、涙を浮かべている。俺はそれを見て強くビンタ。
女は声を挙げて泣き出した。身体がひくつく。そして手元にあった銃を手にして俺の頭に向けて引き金を引いた。飛び散る脳髄とか骨だとか血だとか目玉とかを認識する前に俺は死んだ。
そして私はそのまま恐怖と疲労感に支配されてその場を立った。薄暗い部屋のソファーの裏に隠れて、布地を引っ掻く。喋る気力なんぞ、毛頭ない。床に転がる適当な注射器でSを再び入れる。
ああ、もう五時間が経過していたのね。長く短いセックスだった。彼を殺してしまったけれど、きっと幸せよね。紙の上に箱を被せるみたいに美しいのだから。
さて、続きを書こう。でも、その前に。と、私は手淫に及ぶ。そして彼の死体に聖水を浴びせる。あまりにも強く押し寄せる快感で身体は大きく震えて、死体に照準は合わないけれど、大事なのは行為と心であって結果では無いのよね。
キーボードに手を置く。Wordを立ち上げてから、文字を打ち込んでいく。強い熱が私の脳内を駆け巡る。そしてその熱をそのまま文章へとぶつける。これは情熱だ。愛情だ。伸びゆく空間であって、空気そのものなの。
「じゃあ君は何者?」
「そんなこと聞かないの。貴方の存在も揺らぐのよ。」
「それはお互い様だぜ。」
「まァね。でも、私はそれでもイイのよ。だって、この世なんて全部嘘じゃない。本物なんて何処にも居ないのよ。ぜ〜んぶ、牢屋の中。私のお腹の中なのよ。」
「随分と気持ちのイイ嘘だね。」
ディスプレイに表示されている文字群をそっくりそのまま映し出す世界。貴方も同罪なのよ。だって、これを覗いているんですもの。覗きシュミなんて、タチが悪いわ。異常者よ。性癖がねじ曲がっているわ。この腐れ野郎。
私はそのままパソコンに向かったが、暫くして気分転換を望んでから外に出た。乳房は揺れるし、肌を通り抜ける秋風が微妙に寒い。でもイイの。だって誰も気にしないんですから。この世界には私独り。だァれもいない。何処でおしっこをしてもいい訳だし、何を食べても、盗んでも、覗き見たっていいのよ。うふふ。
高々文字の分際の私はなんて活き活きしているのかしら。こんなにも自由で、気高くて、暖かい。生きているって最高!
暫くウロウロと世界を旅した。最果ての血で仮面達が居たので、近づく。仮面達は私を見るなりゆっくりと近づいてきて、髪の毛を持ち上げて顔をジロジロと見てくる。私は不愉快なので、手元に突撃銃を用意して全弾射撃し、全てを頭部に命中させた。仮面達は見るも無残で凄惨な死体となった。
贋物の癖にしゃしゃり出てくるのが悪いのよ。と思いながら思い切り何度も踏みつける。銃での殺し方はキライ。だって芸がないもの。誰でも出来るし、引き金を引くだけ。なんてつまらない。痛みがないもの。もっと、切れ味の悪いマチェーテとかで首を何度も叩いてどくどくと流れる血を見たいわ。アイスピックで目玉とか腹を刺して、そのまま中を掻き混ぜるのもいいかもね。ああ、痛そう。目を逸らしちゃいそう。でも、そういうのを見て、生きているって実感したいのね。首から流れる血で気道が塞がれてぶくぶく言っている様子だとか、鈍器で頭を殴られて露出している目玉とか脳髄を見て、自分には関係の無い世界を覗いていたいのね。貴方って本当に酷い人。死ねばいいのに。戦争だって、どうせ娯楽として見ているんでしょう。人が死ぬ所とか、苦しんでいる所とかを見て、自分は幸せだ。とかそういった多幸感に包まれたいんでしょう。可哀想な人。だって、私にこんな事をさせて、こんな事を言わせて。あまつさえ、露悪的なセックスとか下品な性描写をするんでしょう。最低な人間よ。
「でも、そんな所もスキ。アバンギャルドじゃない?」
「そうかしら。私は解らない」
夢は終わる。牢屋は開かれる。気持ちの悪い空の青さとともに。煙草の煙とともに。薬とともに。
——セックスをして生きているって薄っぺらい実感にでも浸っておけば?
——ご飯を食べて、他の生物を蹂躙する無敵感でも味わっておけば?
——ずっとずっと、眠っていればいいのよ。だってその方が、楽なのだから。夢に逃げられるし、全てを感じないのだから。哀しさも、苦しさも、喜びも、気持ちよさも。
だって、こんなのを書いている位ですもの。きっと狂ってるんだわ。普通になりたいって嘆くフリして、どうせ自分は外れた人間だと酔いしれたいんでしょう。気持ちの悪い。
内在神話、又は思想体系そのもの ド最狂デューン @DUNE1010
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