【1分で読める創作小説2025】あなたの幸せのためならなんでもできる【約1000字】

音雪香林

第1話 あなたの幸せのためならなんでもできる

 高校の昼休みの学食で、それはまさに青天せいてん霹靂へきれきだった。


玲子れいこさん、俺はあなたのことが好きです。つきあってください!」


 一人の男子生徒が、そう叫んで私の前で深々とお辞儀している。

 は?


 玲子は確かに私の名前だけれど、間違ってない?


 混乱していたが、ヒュッと息を呑み「そんな……」と震えて消え入るような声が後ろから届き我に返った。


 このお辞儀している男子生徒は、私の親友である横山初よこやまういの片思いの相手だ。


 恋の相談を受けたし、今だってダイエットに協力する旨を口にしたばかりだった。


 痩せなくても純粋で性格の良い初は魅力的だけれど、本人が努力すると決意したのだから応援しようとこれまで二人三脚で女磨きをしてきた。


 それを、この男子生徒は……!


 いや、初と一緒にいると視線を感じるからきっと両相いだと早合点した私が悪いのだけれど、でも、感情が理性を上回る。


 湧き上がる怒りを抑えられない。


「大っ嫌い!」


 気づけば私は男子生徒に怒声をもろに浴びせていた。

 はやし立てていた周囲がシーンと静まる。


 さすがに居心地が悪くて速足でお辞儀したままの男子生徒の横を通り過ぎて学食を出た。


 ずんずん歩いて、日陰でじめっとしているため誰も訪れない裏庭にたどり着く。


 ペンキの色が八割がた剥げているボロボロのベンチにくずおれるように座ると、私は「なんでよ……」とため息まじりの苦しい声をこぼす。


 私は、ういが好きだ。


 友達としてだけでなく、一人の人間として……恋愛感情を抱いている。

 けれど初は同性愛者じゃない。


 だから、この恋心には永遠にフタをしようと覚悟していた。


 だからこそ、男子生徒の視線の意味を「初と両想い」なのだと誤解したし、それならば初のことをあきらめられると安堵していた。


 なのに、あの野郎は私を好きだという。

 節穴過ぎるだろう。


 初は優しくて、大切な人のためなら努力ができて、いつだっておっとりと微笑んでいる素敵な女性だ。


「悔しい……」


 私があの野郎だったら初を悲しませたりしないのに。

 よそ見なんてしないで真っすぐ初だけを愛するのに。


 うらやましい。

 成り代わりたいと何度願ったことか。


 ギリィッと歯ぎしりしてしまう。

 意識的に口を開いて深呼吸する。


 少し冷静になった。


「節穴で気に食わない男だけど、初は好きなんだもんね……」


 食堂に戻ろう。


 置いてきてしまった初にあやまって、大っ嫌いは本心だけれども取りつくろって私なんかより初がいいと男子生徒の気持ちをさりげなく誘導しよう。


 私が望むのは、結局は初の幸せなのだから。

 彼女のためなら私はなんでもできる。


 さて、攻略のために戦略をろう。

 まずは私なんかに恋しているその気持ちをぶち壊してやる!




 おわり

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