しゃべるランドセル
霜月あかり
しゃべるランドセル
あかねちゃんのランドセルは、ちょっとふしぎ。
だって――ときどき、しゃべるのです。
「おはよう。きょうは国語の教科書を一番下にいれるんだよ」
「え、なんで?」とあかねちゃん。
「そのほうが、カッコイイから」
……カッコイイ? 授業にはぜんぜん関係なさそう。
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ある日の宿題。
ランドセルはすました声で言いました。
「宿題? あしたの朝やれば、ぜったいに間にあうよ」
その言葉を信じたら、次の日の朝は大あわて。
「あかね、なんでまだ宿題やってないの!」とお母さんに怒られてしまいました。
ランドセルは小さな声で「えへへ」と笑っています。
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体育の時間には、もっとおかしなことを言いました。
「なわとび? そんなのあきあきだろ? ゴロゴロ転がったら注目されるよ」
言われた通りに転がったあかねちゃん。
「……大丈夫? 具合悪いの?」と先生はびっくり。
クラスのみんなは大笑い。
ランドセルだけが「ほら、目立った!」と満足げです。
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雨の日もそう。
「雨の日は、ふたをひらいたまま歩くとオシャレだよ」
言われたまま歩いたら、中のノートも教科書もぐっしょり。
「ランドセルまでびしょぬれじゃない!」とお母さんはタオルで拭きながらぷんぷんです。
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でも、へんなことばかり言うわけじゃありません。
ある日、友だちとけんかしてしょんぼりしていたあかねちゃんに、ランドセルはそっとささやきました。
「大丈夫。きょうの夕焼けは、ぜったいきれいだよ」
言われて見上げた空には、本当に真っ赤な夕焼けが広がっていました。
あかねちゃんの胸の中も、夕日みたいに少しあたたかくなりました。
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次の日。
クラスのみんなに、あかねちゃんはつい言ってしまいました。
「うちのランドセル、しゃべるんだよ!」
すると友だちのまゆちゃんが「えー、ほんと?」と半信半疑。
先生まで近寄ってきて、「じゃあ、いましゃべらせてごらん」と言います。
あかねちゃんがそっとランドセルに耳を寄せると、
「いまはちょっとはずかしいからやめとく」
――そんな返事。
「やっぱりウソじゃない!」
クラス中に笑われ、先生まで肩をすくめました。
けれど帰り道。
ランドセルはふふんと得意げに言いました。
「秘密は、秘密のままがカッコイイんだよ」
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あやしいアドバイスばかりのランドセル。
でも、ときどき大切なことを教えてくれるみたいです。
だからあかねちゃんは思います。
――やっぱり、このランドセルが相棒でよかった。
しゃべるランドセル 霜月あかり @shimozuki_akari1121
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