第28話 狂気の強化

「本気なんだな?」


灯は今しがた弾丸を放った相手、香澄を睨みつける。


「さっきも言った。私と戦えと。戦う気がないのなら・・・・・・我が弾丸に貫かれるがいい!!」


「くっ!」


灯は弾丸を躱す。

しかし、弾丸が勢いよく結界に衝突し激しい振動が生じたことで視線を結界へと向ける。


威力が上がっている!


今までとは一線を描く威力の高さに驚愕を示す。


本当に何があったんだ!?


「っ!」


視線を戻すとすぐさま次の一撃が向かってくる。

灯は横っ跳びで躱すと再び結界が激しい衝突音を奏でる。


灯が眉を顰めて香澄を見返すとふとあることに気づく。


「魔道銃を変えた・・・・・・のか?」


香澄が召喚した魔道銃の柄が変わっていることに気づいた。


色・形に大きな違いはない。

だが柄が僅かに違う。


この3ヶ月ともに行動を共にすることが多かった灯は直様魔道銃の違いに気づいた。


香澄は悪どい笑みを浮かべながら弾丸を放ち続けていく。


「『スピナウォール』」


無限に放たれる弾丸に鬱陶しさを感じた灯は壁を生み出すことで香澄の視界を封じる策に出る。


案の定香澄は視界が封じられ、灯の姿を見失うと弾丸を放つのをやめる。


灯は壁に隠れるように香澄を覗き見る。


香澄はキョロキョロと首を動かして灯の位置を探り当てようとしている。


灯は壁からゆっくりと姿を見せる。


「魔道銃、変えたんだな」


「それが何?」


先ほどとは一転直様返事を返してきた。


もしかして・・・・・・。


「かっこいい柄だな。どこで買ったんだ?」


「ふふふ。な・い・しょ」


人差し指を口元へと寄せる。

その仕草は意識せざるを得ないほど妖艶なものであった。


「・・・っ!」


灯の中で動揺が広がる。


エロい。


その感情が脳内を広がっていく。

しかし、頭を振ると表情を引き締めて香澄を睨み付ける。


魔道銃に対しては即座に返事を返した。

ふっ、人ってのはわかり易いな。

それでは魔道銃に何かあると言っているようなものだぞ?


灯は魔道銃の破壊にシフトチェンジする。


おそらく香澄の様子の変化は魔道銃によるもの。

精神汚染系の魔術を組み込まれているのか、精神操作系の魔術なのか・・・・・・。

とにかく魔道銃を破壊してから考えよう。


灯は動き出す。


「『スピナウォール』」


灯と香澄の間に遮蔽物のように茨の壁をいくつも作り出す。


壁にはかなりの魔力を込めている。

いくら威力が上がっていると言っても簡単には貫けない魔力濃度だ。

こいつを壁にして近づいていき、草属性の身体強化で隙を作って破壊する。


身体強化ストレングス


灯は壁を伝って移動を開始していく。

隠蔽を使用している為探知には引っかからない。

今の香澄といえど簡単には俺を捉えることは出来ないはずだ。


案の定香澄は至る所から顔を出す灯に奔走されて動きを読みきれない様子になっている。

キョロキョロと忙しなく視線を動かし「チッ」と舌打ちを放っている。


灯が茨から顔を覗かせると、香澄がすぐさま銃口を向ける弾丸を放った。


壁を突破されることはないと鷹を括っていた灯は不意をつかれる。


「何っ!」


香澄の放った弾丸は茨をいとも簡単に貫き、灯の鼻先を掠めていく。


間一髪で躱した灯は移動を開始する。


先程の弾丸より確実に威力が高い。


「『大気アトモス重撃弾インパクト』」


「っ!」


香澄は弾丸をところ構わず打ちまくる。

灯の位置などお構いなしに茨を排除しようとする動きだ。


なんだと・・・・・・。


灯は目を疑った。

魔力の心配が入らなくなった灯からすれば茨の壁はかなりの魔力濃度を注いでいる。

それを簡単に貫いたことに驚愕した。


放たれた弾丸は茨を確実に貫き、遮蔽物を確実に取っ払っていく。


マズいっ!


想像を超えた強化に焦り、強引な突破へと切り替える。


「『群草フォリッジアーマー』」


草属性上級魔術を発現。

機動力を活かして接近を試みる。


足を大きく振り抜いて猛スピードで駆けていく。


「っ! 『大気アトモス追尾弾ホーネット』!」


近づいてくる気配を感じ取ったのか、香澄はすぐさま迎撃に出る。


追尾弾を飛ばしたのは、香澄が驚くほどの速度を出していたからだろうか。

この場面で追尾弾は英断であると言える。

が、相手が悪かった。

追尾弾を軽くいなした灯はそのまま速度を緩めず距離を縮めていく。

香澄は再び追尾弾を放つ。

距離が近づくにつれて命中率が高まっていく。

それは迎撃までの時間が少なくなる為である。

しかし、その僅かな時間だけで灯には十分であった。


追尾弾を躱し、懐まで迫る。

ここまで来れば香澄に出来ることはない。

香澄がなんとか銃口を向けてくるが、灯は魔道銃の銃口を掴んで照準を別のところへ向けると力ずくでへし折ったのだった。




⭐︎




「っ!」


これで終わった。

安堵したのも束の間、突如手元が凍り付いた。

目を見開き手元を確認すると、へし折ったと思ったものは氷の銃であり、それを破壊した為自身の両手が凍り付いたのであった。


氷属性の魔術っ!


そして、それと同時に目の前にいた香澄が笑みを浮かべると灯へと抱き付く。

そのまま氷の像へと変化したことにより全身を氷漬けにされ顔以外が氷に覆われる。


いつの間にっ!


不意を疲れたことに動揺する。

と同時に背後で銃口を向けられる音が聞こえてくる。

首を動かし、横目で流し見る。


すでに弾丸を放つ準備が完了している香澄。


マズいと感じ、すぐさま氷の拘束を解こうとする前に香澄の弾丸が放たれる。


大気アトモス弾丸バレット


間に合わないっ!


確実に弾丸の直撃の方が速いと悟った灯は回避ではなく防御へと切り替える。


「『スピナウォール』!」


先ほどは貫かれたが、威力が分かれば対処のしようはある。


灯は自分と香澄の直線上に茨の壁をいくつも作り出す。

それにより弾丸は茨を貫通していくたびに僅かずつ照準がズレていき、茨を突破した頃には明後日の方向へと進路を変更していた。

その隙に氷を砕き自由を確保する。


香澄は悪態をついて再び銃口を構える。


大気アトモス重撃弾インパクト


次に放たれた弾丸は先ほどよりも威力がある。

しかし、同じ戦法で進路をズラしていく。

威力が高い為、先ほどよりも大袈裟に進路変更は出来なかったが、無事ギリギリのところで変更に成功し、頬先を通り抜けていった。


「・・・・・・」


弾丸が通じなかったはずなのに香澄に動揺はなかった。

それどころか再び銃口を向けてくる。


ああ、なるほど。


香澄の意図に気づいた灯は小さく笑みを浮かべる。


大気アトモス軌道弾オービット


再び弾丸が放たれたことに対し、同じように壁を展開する。

しかし、弾丸は壁の手前でそれぞれ進路を変え壁を抜いていく。


灯は狙い通りであったことに笑みを浮かべた。


どうやら、一撃一撃の威力は上がっているがその分単調な攻めになってしまっているようだ。

灯相手にその攻め方は愚策。

読み易い相手ほどやり易いものはない。


「『スピナ王剣スパーダ』」


王剣を召喚すると壁の側面を抜けて駆けていく。

道中迫ってくる弾丸を切り裂く。


今の香澄では反撃までは予想出来ていないだろう。

その考えは当たりであった。


香澄は慌てた様子で弾丸を放つ。


茨を避けて側面から回り込むように上空と右側からやってくる。


これは追尾弾だな。


軌道から判断した灯は『スピナ襲撃レイド』で弾丸を全て相殺していく。

そのまま距離を縮めていけ。

香澄は迎撃しようと銃口を向けようとするが遅い。


痛いだろうけど我慢してくれよ・・・・・・。


群草フォリッジアーマー


草属性上級魔術の身体強化を発現した灯は残りの距離を一瞬で縮める。


そして、そのあまりの速度に対応しきれていない香澄の脇腹をその足で蹴り飛ばすのであった。




⭐︎




「ぐはっ!」


灯の回し蹴りが脇腹を捉えたことにより、香澄は結界まで吹き飛ばされ勢い良く激突する。

その衝撃により結界は激しく揺れ動き、香澄は苦悶の表情をあげて倒れ込む。


「・・・・・・」


灯はゆっくりと香澄との距離を縮めていく。


今すべきことは、香澄の持つ魔道銃を破壊すること。

出来ることならこれ以上香澄を傷つけたくはない。

香澄の様子を伺いながら慎重に距離を縮めていく。

先程のように不意を疲れることを恐れての行動だ。

香澄は苦悶の表情を浮かべながら灯を睨みつけている。

まるで忌々しいものを見るかのような歪んだ表情だ。

しかし、動けないのか立ち上がるような仕草は見えない。


油断は出来ないが、破壊するなら今がチャンス。


立ち止まることはせず、距離を縮めていく。


「・・・・・・す・・・・・・い。・・・・・・に・・・・・・す」


香澄が何やらガチガチと呟き始める。

何を呟いているのか分からないが、恨み、妬みの類だということは状況が証明している。


「・・・・・・す・・・・・・い。・・・・・・に・・・・・・す」


近づくにつれて少しづつはっきりとしてくる。


「殺す、絶対。絶対に殺す」


ブツブツと物騒なことをひたすら呟いていく。

そして、その恨み、妬みが力となり徐々に香澄に変化が訪れる。


なんだこれは?


香澄の武器が脈打ち始める。

心臓のようにドクンドクンと音を発する。

それは灯まで聞こえるほどはっきりとした音だ。

香澄の言葉と共にその音は大きく力強くなる。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


次第に香澄の様子がさらに変わっていく。

銃から邪悪に感じるほどの魔力が湧き上がるとそれが香澄を包み込んでいく。

そして香澄の言葉と共に膨張し、香澄をより強く支配していく。


やがて言葉が止み、視線を向けられる。


その目は真っ赤に染まり、明らかに支配感を銃に奪われたことを意味していた。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


すでに「殺す」としか発しなくなった香澄を見て覚悟を決める。


これは気を抜いたらすぐにやられそうだ。

そう思えるほど禍々しい魔力を纏っていた。


少々強引な方法になるが許してくれよっ!


灯は距離を詰め、王剣を振り下ろす。


灯と香澄の戦いは続いていく。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 07:00 予定は変更される可能性があります

異世界帰りの『茨』属性魔術師〜落ちこぼれが10年を異世界で過ごしたら最強格へと成長した件〜 @aiai66986

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画