踊らされる人形たち

桜森よなが

人形劇

 今、世界では人形劇が大ブームになっていた。

 公園に行くと、誰かが人形を動かしているのをよく見かけるくらいに。


 僕は今年で三十歳だが、独り身だから休日はやることがなくて、今日は暇つぶしに公園へ来ていた。


 すると、懐かしい人物がそこにいた。


「おい、道本じゃないか、久しぶりだな」


 彼は高三の時、クラスメイトだった道本慎太郎。

 道本は砂場の近くでレジャーシートを広げて座っていて、フランス人形を自身の傍に置いていた。


「お前も人形劇をやっているのか?」

「ああ、まぁな」


 と彼は答え、僕の方を見る。

 どよんとした暗い目をしていた。


「元気なさそうだな」

「そうか?」

「ああ、風呂は毎日入っているか? 正直、なんか臭いぞ」

「入っている」


 ほんとかな……。

 こいつこんな奴だっけ、高校の時はもっと明るかった気がするんだが……まぁでも十年以上も前のことだしな。


「あ、そうだ、人形、動かしてみてくれよ」

「いいけど、金くれよ」

「何円だ?」

「一分千円だ」

「しかたないな、ほらよ」


 料金を払うと、彼は手の指を動かし始めた。

 フランス人形が手足を振ったり、くるりと回ったりして、踊りだす。

 どうやって人形を動かしているんだろう。透明な糸でも彼の指についているんだろうか?


「終わったぞ」

「うまいもんだな、だいぶ練習しただろ」

「まぁな、なぁ、それよりもさ、久しぶりに会ったんだし、今日、飲まないか」

「いいけど、どこで?」

「俺の家だ、場所は――」


 彼の家の場所を聞いた後、僕たちは別れた。

 そして、夜、教えられた場所へ行くと、そこには高層マンションがあった。

 彼の部屋のインターホンを鳴らすが、誰も出てこない。

 試しにドアノブを回してみると、なんと開いてしまった。不用心だな、と思いながら家の中に入ると、玄関で道本が倒れていた。


「おい、道本、大丈夫か?」


 と訊くが、返事がない。

 息をしていなかった。

 

「ようこそ、我が家へ」


 女性の声が聞こえ、顔を上げると、フランス人形がリビングからこちらに歩いてきていた。

 よく見ると、リビングに人間の死体らしきものがいくつもあった。


「ねぇ、あなたも私の人形になって?」


 フランス人形がそう喋ると、死んでいるはずの道本が立ち上がり、僕の首を両手で絞めてきた。


「ぐ、ぐあ、あ……」


 必死に抵抗しながら気づく。

 そうか、操っていたのはの方だったのか。

 リビングでは、先程まで倒れていた者たちが急に踊り出していた。

 このままじゃ僕も操り人形に……。

 フランス人形が笑いながらこちらを見ている。

 い、いや、だ、しにたく、ない……あっ、ああ、あ……。

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踊らされる人形たち 桜森よなが @yoshinosomei

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