空が見えるなら

木曽 リヒト

空が見えるなら

 すぐ身近にあるけど、とっても遠くにあるもの、生まれた時から見えていたのに、私は行ったことが無い。

 君に会えるだろうか、私の願いは叶うだろうか、幼い日に私を助けてくれた君にまだ「ありがとう」と言えてない。

 君が言った「空にいるから」と、君に言った「また会おうね」と、それが叶うと信じて、私はあの日君に背を向けた。もし分かっていたなら私はどうしただろう、多分それでも君に背を向けたかもしれない、幼い自分はきっとそれを恥ずかしいと言うだろう。

 もし空が見えるなら、君に会える、美しい羽をもつ君に。

ー ー ー ー ー ー

 あの日空が黒く染まった、外は瘴気が漂い、大地はその豊かさを失い、重い空気が人の歩みを阻んだ。

 その日からそう遠くない日、阿鼻叫喚の地獄絵図そう形容されるような光景が広がった、生物がその原型を失った、人も動物もそこには関係なくそのすべてが異形の怪物へと成り下がった。

 唯一の生き残りは外にいなかった者たち、要するに建物などの中にいた者たちである。

 その者たちは元々自分達が住んでいた土地を奪還しようとして部隊を組んだ、何を隠そう私もその一人である。

 本日はあるビルを奪還する作戦に参加した。

『隊ああ_』

『まっ_』

 無線から聞こえる断末魔、怪物に慈悲など存在せず、ただひたすら暴の化身として生物を殺す。

 倒す手段はある、我々も何回も戦っている、それでも死ぬ時は死ぬ、残酷な世界に嫌気が差す。

「化け物め」

 グギュロロロ、と生物の声とも思えないような気味の悪い音を喉から鳴らす怪物共は焦点の合わぬ目で、しかし私を睨んでいた。

 改造された銃器を振るい、一体また一体と怪物を殲滅する、だが数が数である、余所見した瞬間に腕を失った。

「ぅ゙ぐ、あ゙あ゙あ゙ぁぁ」

 痛い、痛い、痛い傷口から垂れる血液とそれに反応した怪物が波のように押し寄せる。助けを呼ぼうとして気づいた_無線が無音だと。

 誰一人として生きているものはいないのだろう、だがここで死ぬわけにはいかない、ここで死んで奴らのように成り下がるくらいなら_そう決意を定めて爆弾を起爆した。

その瞬間とてつもない衝撃波とともに私はビルから飛び出た、ふっ、ざまあみろそう思いながら消えゆく意識の中で何だか懐かしい気配がした。

ー ー ー ー ー ー

 なんで君が、そう最初に思った。なんで君が、あの時助けたのに。あの時僕は、役目を無視してまで君を助けた、君に_君に長く生きて欲しかった。

 遅すぎたんだ、もっと早く来ていれば、僕がこのことを知っていたなら、君を_君を助けることができただろうか。

 生きてくれ助けに来たから、生きてくれこの空を晴らすから、もし君に_空が見えるなら。

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空が見えるなら 木曽 リヒト @Kiso_Rihito

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