ハサミがつなぐ、父と娘のささやかな継承

休日の昼下がり。
梅田の居酒屋に集うのは、
昔ながらの「職人魂」を抱えた美容師たち。
かつて修行に明け暮れ、
コンクールに挑み、
汗と酒と笑いにまみれたあの日々──

あれから数十年。
白髪は染まり、眼鏡をかけ、
老眼とスマホを両手に、彼らは静かに笑う。

そこへ現れる一人の少女。
美容師を志す19歳の娘。
父と同じ道を歩むことを選んだ、
眩しいほどの「令和」。

昭和と令和。
教え方も、働き方も、学び方も違う。
けれど、そこにある「志」だけは、
変わらない。

古びたハサミの重さと、
新品のシザーケースの希望が、
一つの席にそっと並ぶ昼飲みの午後。

伝えること。受け取ること。
そして、静かに手放すこと。

これは、父と娘、
そして仲間たちの、
ささやかで、確かに美しい「継承の物語」。

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