第6話 大通りでの討伐

「リンドネルも少し休め。街の祭りでも見たらどうだ?他の隊員も、巡回という名目で休ませている。なに、大丈夫だ。街に魔物が出ることなんてそうそうないさ」


 僕は、隊長にそう言われて、今街の大通りを歩いている。休みとは言われたが、建前上は仕事だ。久しぶりにぐっすり寝たおかげが体力はだいぶ回復した。何があっても、きっと対応できるだろう。そんなことを考えながら露天を見ながら歩いていた。


 思っていたよりも、様々な露店が並んでいる。開国祭に乗じて商人が集まってきたのだろう。これだけの人なら、売り上げも良いだろうな。

 大賑わいの大通りの中で、五歳ぐらいだろうか。小さい子供と、その子の手を繋ぎながら歩く十歳ぐらいの少年が目に入った。


「何か欲しいのある?ママがお小遣いくれたんだ。お兄ちゃんが買ってあげるよ!」

「じゃあ、にいにとお菓子食べたい!」

「いいよ!じゃあ、あっちが屋台みたいだから、そこで買おうね」

「うん!」


 微笑ましい光景に頬が緩む。

 ああ、そうだ。こんな笑顔を見るために僕は使者をしているんだ。幸せに笑える人を、一人でも増やすために。

 タタタッと小走りで屋台へ向かう二人を見送ろうとした、その時だった。

 ブレスレットが警告の音を脳内に響かせ、オレンジ色に光った。


「――!!」


 ブレスレットが反応し、オレンジ色に光った。ということは、半径二百メートル以内で魔人化の進行、もしくは魔人の能力の行使が行われている……!

 反応の強い方向を見ると、青年が腕を掻きむしり、苦しんでいるように見えた。その腕には、魔紋が浮かび上がっている。周りの人も、その様子を見て慌てて距離を取ろうとした。だが、まだ気づいていない人も多い。


「皆さん、その方から離れてください!!」


 できるだけ声を張り上げて、異常を周りに伝える。次は、と家紋が刻まれた神具に神力を込め、通信を繋げる。


「こちらリンドネル。大通りで魔人化を確認。暴走型だと判別。早急に対応します」


 できるだけ落ち着いたトーンでそう話すと、脳内に隊長の声で返信される。


『リンドネルは討伐を開始しろ。大通りに近い使者は早急に大通りへ向かえ』

「了解。」


 腰の剣を抜き、魔人へと構える。先ほどまでただの青年だった魔人は、もう自我が存在していないようだった。奇声を上げ、近くにいた子供へと向かう。

 僕は落ち着いて子供たちを庇い、一撃をくらわせる。ギリッ、と硬い感触。魔人は一歩引いたが、大きな傷にはならなかった。


――魔人になりたてでこれか。


 自分の無力さを実感して、今度は神力を剣へと纏わせる。今日は、調子が良い。できるだけ薄く、鋭く神力を巡らす。向かってくる魔人に剣を振り下ろすと、先ほどとは異なり深く傷がついた。

 魔人は甲高い悲鳴を上げ、倒れ込む。

 その声を聞き、胸がチリッと痛んだ。気にしてはいけない。彼は、もう倒さなければいけない、人間の敵だ。


 とどめに、と剣を振り上げたその時、魔人はわずかに言葉を発した。


「たすけて、くれ」

「――っ!」


 ズキン、と胸が痛み、振り下ろすことを躊躇う。妄言だ。気にしてはいけない。倒さなければならない。


「ダメです!―――さん!!」


 群衆の方から少女と、青年の聞こえる。何か言い争っているようだ。


「離してくれ!確かに、確かに聞こえたんだ!もしかしたら、あの人は、まだ……!!」


 心の声を代弁したような言葉が聞こえ、手が震える。どうすればいい。本当に、振り下ろしていいのか?見逃すべきなのか?捕獲するべきなのか?どうすれば、いい?


「諦めろ、―――!!」


 誰かの言葉で、反射的に剣を振り下ろす。誰に向けた言葉かすらわからなかった。だが、今の自分を動かすには、十分だった。


「兄さん!」


 泣きながら、魔人になってしまった青年の家族であろう人たちが、遺体に駆け寄る。その姿が自分と重なり、また胸が痛んだ。

 僕は、確かに人々を守った。だが、同時に一人の元人間を殺してしまった。そういうことなのだ。彼らは、僕を責めはしなかった。ただただ、家族の死を嘆いていた。それが余計に、僕の胸を締め付ける。


 何かを求めて僕は周りを見渡した。すると、先ほど言い争っていた方向に、悔しそうな顔をしながら立ち去っていく同い年くらいの赤い髪をした青年と、表情が読めない青年、そしてその二人の後を追う少女の姿が見えた。

 あの、自分の心をそのまま代弁したような言葉を言ったのは、誰だったのだろうか。ただの、幻聴だったのだろうか。


 すがるように見ていた後ろ姿の一つが、ふと振り向いた。髪で隠されていて片方しか見えないエメラルド色の目は、何かを訴えるようにこちらを見つめていた。だが、すぐに物影で遮られて見えなくなってしまった。彼らは、誰だったのだろうか。


「使者さん、助けてくれて、ありがとう。」


 先ほどかばった子供たちからお礼を言われ、我に帰る。そうだ。今は私情を出してはいけない。


「大丈夫だった?」


 子供たちの目線に合わせてかがむと、その子供はさっき屋台の方へと走っていっていた兄弟だった。この子達の幸せは、守れたんだ。

 僕は、そう思うほか仕方がなかった。

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神紋と魔紋 霜野清良 @simonoseira

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