泣き虫のヒーロー

@gaga3

第0話 だから僕は叫び続ける

「第32回全国文学新人賞、受賞作──鵜沢蒼一」

 拍手が一斉に鳴り響いた。

 眩しい照明の下で立ち尽くす蒼一には、まだ実感なんてものはなかった。


 インタビュアーが差し出すマイクを握りしめ、蒼一は不安を隠すかのように胸を張って語り始めた。

「この作品は、僕がこれまでに感じてきた劣等感や喪失感、不安……そのすべてを詰め込んだものです。

 何度も負けて、負けて、負け続けて……。

 そんな時、人はこう思うかもしれません。“失敗は誰にでもある”“まだ一回失敗しただけだ”と。

 でも、それはただ自分の負けを認めたくないだけで、失敗という名の麻薬に依存してしまう。」

 

 マイクを握る手が震える。

「そんな自分が嫌いで……憎くて。」

 だけど大嫌いな自分を否定しないために、負けを認めて前に踏み出すために。

 

 だから僕は、叫び続ける。

「”失敗は成功のもとなんてのはただの欺瞞なのだ”」

 かつて彼女が与えてくれたそんな言葉を胸に、感謝と共にこれからも彼は筆を握り続ける。


 そう。この物語は一人の先輩と出会った瞬間から、動き出す。

 これは、鵜沢蒼一がどん底から這い上がる物語だ―――。


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