第39話 人形探偵セシルⅢ【本編完結】
バルドルフの見舞いを終え、セシルはティベリオとノクシルの三人で屋敷に戻っていた。
セルジとラッジは「もう少し父と話をしたい」と病室に残っている。
何十年もすれ違ってきた親子なのだ。ようやく分かり合えた今、語ることはいくらでもあるだろう。
気を利かせたティベリオは、セシルとノクシルだけを先に屋敷に送り届けることにした。
ついでに説教をするために。
「まったくお前たちは!!変なところばかり似やがって!!あんなもんいきなり見せる必要があったか!?あれで前公爵の心臓が止まったりしたら、セシルが助けた意味がなくなるだろうが!」
「バルドルフ様にはそれなりに振り回されましたし、あれくらいなら許容範囲かと」
「そうそう。いくら父さんが許すって決めたとしても、僕らまで許す義理はないし?あれくらい甘んじて受けてもらわないと」
「兄さんの仰る通りです」
「でしょ?さすがノクシル、分かってる」
「お前らなぁ……」
ティベリオが深くため息をついたところで、ノクシルがさらりと告げる。
「テディ様、ため息ばかりついていると……老けますよ?」
「そうだよ、テディ。幸せも逃げてしまうよ」
「誰のせいだ、誰の!!」
「「さあ?」」
同時に首をかしげるセシルとノクシルに呆れながらも、ティベリオは呆れ顔を見せる。
けれど、胸の奥では安堵していた。
セシルの意識が戻るまで、ひょっとするともう二度とこの掛け合いも出来なくなるのではと怯えていたから。
ふと、ティベリオはセシルを見やる。
「……セシル。探偵の方はどうする?元々ラッジを探すために始めたが、もう必要ないだろう」
「そういえばそうだね。父さんが戻ってきたなら、またお世話しなきゃいけないし探偵は廃業しても……」
「おや、続けてもいいともいますよ?」
ノクシルの言葉にセシルは目を瞬かせた。
「お父様のお世話なら私も出来ます。セルジ様は優秀ですから、公爵家の再建も問題ないでしょう。もちろん、多少はお手伝いに伺いますが……基本はこちらで過ごすつもりです」
「…………そう。なら、やめなくてもいいのかもね」
セシルの声はどこか嬉しそうだ。
ノクシルはセルジの元に残ると思っていた分、一緒に暮らせるのが嬉しいのだろう。
表情には決して出さないけれど。
「と、いうわけでテディ。これからもよろしくね?」
「は?いや、俺は警察官なんだが?」
「大丈夫、大丈夫。今まで通り何とかなるよ」
「そんな無責任な話があるか!」
「頼りにしてるよ?相棒」
相変わらず自分に振り回されるティベリオに、セシルは小さく笑みを浮かべた。
――そして数日後。
彼らの屋敷の門前に、一枚の看板が掲げられる。
『人形探偵セシルの事務所』
それが、新たな事件を引き寄せることになるのはまた別のお話。
人形探偵セシル【完結】 陽翔 @edamamemane
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