エピローグ
翌朝。
イベントは、「最新の特殊効果と、予期せぬ電源トラブルが重なった、ハプニング演出」として、一部のオカルトマニアの間で、伝説となった。会社の広報部は、火消しに追われ、てんてこ舞いだ。
部長は、建造物損壊と、威力業務妨害の容疑で、警察に連行されていった。彼は、パトカーに乗る直前、真央に向かって、にこりと笑い、「生きている限り、何度でも、やり直せますよ。朧会のメンバーは、会社上層部どころか、行政、司法の現場にもいるのだ」と言い残した。
真央と古賀は、朝日が昇る中、海善寺の縁側で、二人並んで、座っていた。三百畳の床磨きは、まだ、半分も終わっていない。
「……古賀さん」
「……なんだ」
「あたしたち……来年も、これ、やるんでしょうか……」
真央は、心底、怯えた声で、尋ねた。
古賀は、煙草に火をつけ、紫煙を、朝の空に、細く、吐き出した。
「……さあな。だが、俺は、来年で定年だ」
「えっ!?」
「だから、まあ、なんだ。次の“火消し役”は、お前だな、桜味」
古賀は、そう言って、ニヤリと笑った。
真央は、想像した。来年、自分が、鬼の形相で、消火器を抱えて、走り回る姿を。
そして、思わず、ぷっと、吹き出してしまった。
空は、どこまでも、青かった。
九十九の物語が解き放たれ、たった一つの物語が、後に残された、夏の日だった。
(完)
お仕事は百物語です 来田あかり @kita-akari
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