大馬鹿者へ告ぐ
時津橋士
大馬鹿者へ告ぐ
おい、聞いているか、大馬鹿者。私はお前という大馬鹿者がいたばかりに片道六千円もする次元切符を買う
いいか、お前は今、お前が過去において幾度も正解してきたマルバツ問題に初めての不正解を叩きだそうとしているのだ。きっと今のお前にはこれがどれだけ罪深いことなのか、考えることすらできないだろう。お前は今、単に間違おうとしているのではない。答えを知っていながら、わざと間違えようとしているのだ。みっともないぞ、コラ。もちろん、今のお前にとって正解は苦悩と
私は今日、六時に起きたのだ。今のお前のように午後六時に起きたのではない、午前六時だ。歯を磨いて、リビングに立ち、朝刊を読みながら珈琲を
さあ、そろそろディテールが分かってきただろう。もっとも、まだお前にまともな思考回路が残っていればの話だが。
お前は今、自分がことごとく、人生の
多分、お前は私の声すら、幻聴だと信じて疑わないだろう。今のお前にとって幻聴が真実の声で真実の声が幻聴なのだ。お前の思考は何もかも、正反対なのだ。概念的にはタロットの吊られた男なのだ。しかし、お前にとっての幻聴をもう少しだけ聞け、大馬鹿者。朝方になると向かいの部屋に住んでいる住人が発狂したかのように叫ぶアパートに住み、最低限のスペックの白いパソコンに、ころさんのステッカーを貼り、昼夜逆転した暮らしをして、両親を嘆かせながら生活し、スマホショップで押し切られるままにインターネットの契約を変更し、生活のためと言って面白くもなんともない仕事に精神をすり減らし、まるでこの世を生きている
きっと、どれだけ私が言葉を投げかけようと、馬鹿なお前は聞く耳をもつまい。ならば最終手段だ。本当ならこんな
お前なら、大丈夫だ。愚かにも自分を役立たずと認めているお前は、もう既に持っている。お前の望む全てを。機が熟し、間違いなくお前は言うだろう。“生きていてよかった”と。お前が優れているのは、困難を乗り越えたからではない。苦悩を忍従したからでもない。才能があるからでも、努力をしたからでもない。お前が、お前という存在を継続させたからだ。
もう充分だろう。結局は、お前が選ぶのだ。分かり切っているマルバツ問題をこれから解きに行け。お前がどんな選択をしようとも、私だけは、お前を責められない。ただ、心配なのだ。お前の履歴を、誰よりも知っているから。
さあ、行け。偉大な大馬鹿者。
大馬鹿者へ告ぐ 時津橋士 @kyoshitokitsu
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