第38話 完璧美少女モデルを、僕の前だけでは、ポンコツになるぐらい甘やかす
あれから、僕たちの日常は大きくは変わらない。
相変わらず僕は、可愛らしい透花のお世話を続けていた。
少し変わったことと言えば、僕は前以上に透花を甘やかしてしまっていることだろうか。
「透花、朝だよ、起きて」
「ん……まもる、くん……おはよ……」
朝、いつものように透花の部屋を訪れると、ベッドの中からか細い声が聞こえてくる。
僕が布団をそっとめくると、寝ぼけ眼の透花が、とろんとした表情で僕を見上げていた。
「おはよう、透花。今日も可愛い寝顔だね」
「んふふ……。守くんの、ちゅーで起こして……?」
「ええ……朝から恥ずかしいな」
「王子様のキスがないと、お姫様は起きないんだよ?」
「……仕方ないね」
甘えきった声でそんなことをねだる、僕だけの可愛いお姫様。
僕はそのおねだりに抗うことなんてできず、ゆっくりと顔を近づける。
触れるだけの、優しいキス。
「ん……」
それだけで、透花は幸せそうに目を細める。
うっとりとした、とても満足そうな表情。
その表情を見るたびに、僕の心は愛おしさでいっぱいになる。
「ほら、起きないと遅刻するよ」
「やだ……。まだ、守くんとくっついてたい……」
そう言って、僕の首に腕を回して離さない。
僕は苦笑しながらも、その温もりを存分に味わう。
「ダメだよ。ちゃんと歯を磨いて、顔を洗わないと。その代わり、今日は一緒に朝食を食べよう」
「ほんと!? やった! 守くん、大好き!」
結局、僕はいつだって透花に甘い。
本当はもっと厳しくしないといけないのでは、と思うこともある。
でも、これでいいんだ。
透花は元々外ではとんでもない頑張りやさんで。
君を甘やかすことが、僕の何よりの幸せなんだから。
衣食住、そのすべてで透花を甘やかすのが、僕の新しい日常になった。
食事は、もちろん僕の担当だ。
朝は抱っこして洗面所に連れていき、彼女が食べたいという料理を朝から作る。
普段は一人で済ませている朝食を、一緒に食べることも最近は増えた。
昼は、彼女の好きなものを詰め込んだ、愛情たっぷりのお弁当。
以前はコンビニや購買で買っていた透花は、堂々とお昼のお弁当を、僕が作っていると公言しはじめた。
そして夜は、彼女がその日食べたいものをリクエストしてもらい、腕によりをかけてメニューを振る舞う。
和食、中華、フレンチ、そしてイタリアン。
その日の気分によってコロコロと変わる希望に合わせて、栄養バランスも考える。
栄養はたっぷり、カロリーは控えめ。
モデルとして活躍する透花の妨げにならないように、料理の味も栄養も考えている。
「んー、おいしい! 守くんの作るご飯は、本当に世界一だよ!」
僕の作ったオムライスを頬張りながら、透花は心の底から幸せそうな顔をする。
その笑顔が見たくて、僕は毎日、心を込めて料理を作る。
「ちょ、僕の名前書くのはやめてよ」
「いいじゃん」
「いや、本当に恥ずかしいし」
まもる❤とケチャップで書かれたのには、ちょっと閉口してしまったけど。
「はい、口、開けて。あーん」
「あーん……ん、おいひい」
デザートには、僕がスプーンでプリン(さすがにこれは買ったものだ)を運んでやると、彼女は素直に口を開ける。
まるで餌をねだる雛鳥のよう。
その無防備な姿が、たまらなく愛おしい。
服だって、僕が選んであげる。
「ねえ、守くん。今日のコーデ、どっちがいいかな?」
休日の朝、透花は下着姿のまま、クローゼットの前で首を傾げる。
その眩しい姿にドキドキしながらも、僕は真剣に彼女に似合う服を選ぶ。
「どっちも良いと思うけど、こっちのワンピースの方が、今日の透花には似合うと思う」
「じゃあそうしよっか。守くんが見たい姿のほうが、私も嬉しいしね」
「ありがと。じゃあ僕が髪も結んであげるよ」
「ほんと? じゃあ、お願いしちゃおっかな」
僕が選んだ服に着替えた透花は、鏡の前でくるりと回ってみせる。
僕が髪を梳かし、丁寧に三つ編みにしてやると、彼女は満足そうに微笑んだ。
「どう? 似合う?」
「……世界で一番、綺麗だよ」
「んふっ、ありがと……」
僕の言葉に、透花は頬を真っ赤に染めて、嬉しそうに俯く。
そして、平日は学校から帰ると、自然とどちらかの家に集まり、一緒に宿題をする。
もちろん、透花の部屋は相変わらず散らかっているけれど、それを片付けるのも、相変わらず僕の楽しみの一つだ。
「もー、また脱ぎっぱなし。下着くらい、ちゃんと洗濯カゴに入れなさい」
「えへへ、ごめんなさーい。守くんが片付けてくれるって、思っちゃうから……」
悪びれもせずにそう言って、僕の背中にぎゅっと抱きついてくる。
その温もりと甘い香りに、僕は敵わない。
柔らかな感触にドギマギとしながらも、僕は平気そうに笑って、溜息をつくフリをする。
「しょうがないなあ、今回だけだからな」
「昨日もそう言ってたよ?」
「……うるさい」
やれやれ。
結局、僕は彼女の世話を焼くことから、一生逃れられそうにない。
いや、逃れたいなんて、これっぽっちも思っていないけれど。
夜、宿題を終えた二人で、ソファに並んで他愛もない映画を観る。
僕の肩に頭をこてんと預け、安心しきったように目を閉じる透花。
テレビから流れる音声や映像も良いけれど、隣りに座る彼女の存在のほうが、今は気になった。
僕はその柔らかな髪を優しく撫でながら、彼女のちょっとした仕草に耳を澄ませる。
なんて、幸せな時間なんだろう。
「……透花」
「……んー?」
眠っていると思っていた彼女が、小さな声で返事をする。
僕は、彼女の額にそっとキスを落とした。
「好きだよ」
僕の告白に、透花はゆっくりと目を開ける。
その潤んだ瞳が、僕をまっすぐに見つめ返す。
「……私も。大好きだよ、守くん」
どちらからともなく、唇が重なった。
最初は触れるだけだったキスが、次第に熱を帯びて、深くなっていく。
「今日は母さん、完全に夜勤のはずだから……」
「……うん」
僕はテレビを切り、部屋の明かりを消した。
僕の料理の道は、まだ始まったばかりだ。
叔父さんの店で修行を積み、いつか自分の店を持つという夢もできた。
その時にイタリアンを本職にするのか、父さんの技も継ぐのかは分からないけれど、一つ方向性が定まったのは確かだ。
でも、僕の料理の原点は、いつだって変わらない。
――完璧美少女モデルを、僕の前だけでは、ポンコツになるぐらい甘やかす。
腕の中で、幸せそうに眠りにつく僕だけのお姫様。
その寝顔を見つめながら、僕はそっと囁いた。
「おやすみ、透花。……僕の、可愛いお姫様。これからもずっと、君を甘やかすよ」
僕の未来は、きっと、君と二人で作りあげていくんだろう。
時には色々な悩みを抱えたり、不安な気持ちになったり、すれ違うときもあるかもしれない。
でも最後はとても甘く幸福で、輝かしいものになれば良い。
そんな想いを胸に、僕は愛しい人の温もりを抱きしめ、ゆっくりと目を閉じた。(了)
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これにてひとまず完結になります。
続きも構想とかも練ってはいるのですが、グダらないところでサクッと一度終わっておこうと思います。
お付き合いいただき、★やコメントいただいた方、ありがとうございました。
良ければレビューや感想いただければ幸いです。
次回は戦乱を駆ける英雄譚か、辺境内政ものか、後漢霊王をモデルにした、後ろ盾0の孤独な王様の活躍もののどれかを書こうと思います。
またお付き合いいただければ幸いです。
完璧超人の美少女モデルは、僕の前でだけ甘々でポンコツになる 肥前文俊@ヒーロー文庫で出版中 @hizen_humitoshi
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