第4話

「……クッソ落ち着かねぇ」


 落ち着かない……その理由はもちろん二階堂のことだ。

 話をするようになり、その正体を知った翌日にこうして家に誘われるなんて思わなかった……クソッ、まるで俺が童貞みたいじゃねえか!

 ……いや童貞だけども!


「……うん?」


 ふと、そんな風に考え事をしていた時だ。

 背中をツンツンと突かれ、振り向くと当然そこに居るのは二階堂で、今のツンツンをしてきたのは二階堂しかあり得ない。


「ねえ、ちょっとお話しようよ」


 コテンと首を傾げての提案……クソ可愛い。

 スッと体の向きを回転させて二階堂の方へ……ちなみに二階堂だが、こうやって話を出来るだけでも楽しいのだとか。

 彼女曰く本当に今までこうやって接する相手が居なかったとのことで、それだけ今の俺との関係に比重が置かれているようだ。


「次の数学は大丈夫そう? 宿題はやった?」

「おうとも、バッチリだよ」

「……ちぇっ、そっか」

「なんで残念そうなんだ?」

「ううん、別に。もしやってなかったら教えてあげようかなって」

「流石にそこまで迷惑はかけらんねえでしょ」

「別に気にしないよ。むしろ教える口実で、もっと近い距離で会話が出来ると思うと嬉しいし?」


 ……この子、意識せずにこういうことを言うのも中々タチが悪い。

 この世界の男は女への接し方が分からないとは言ったが、二階堂を見ていると女もそうなんだと改めて実感する。

 ただ……女は男を見下しているとはいえ、恐怖心もあるはずだ。

 それなのにこうして俺と接することが出来るだけでなく、この環境に身を置いている二階堂は、他の女にはない度胸の塊な気もするな。


「あのさ、本当に今日良いのか?」

「良いよ。もうお母さんに連絡したし」

「……えっ?」


 お母さん……そうか二階堂はお母さんと一緒なのか。

 てか俺としては、二階堂のお母さんは俺のことをどう思ったのかが気になって仕方ない。


「大丈夫だよ。確かに驚いてたけど、乙田君を見たらお母さんもきっと気に入ると思う」

「……ちょっと怖いけど、不興を買わないように気を付ける」


 本当に大丈夫なのに、そう二階堂は面白そうに笑った。

 そんなこんなで時間はあっという間に過ぎて放課後になり、二階堂と一緒に教室を出たのだが、そこでちょっとしたハプニングがあった。


「お前ら、昨日から随分と仲良いじゃん」

「目立たない者同士仲良くて良いなお前ら!」


 山田と田中だ。

 ニヤニヤと揶揄う気満々の山田田中コンビだけど、こんな風にニヤニヤ笑っているのは他のクラスメイトも同じだ。

 この視線の多くは俺に向けられており、やはり昨日の一歩退かない俺の言い草が気に入らないんだろう。


「っ……」


 そして、この視線を受けて二階堂は縮こまった。

 昨日はスマホを奪われてこの二人に反抗したとはいえ、彼女はどこまで言っても女の子……周りが全て異性のこの状況で、こんなにも沢山の視線を浴びて嫌に思わないわけがない。

 そう思った瞬間、俺は二階堂というの女の子より守りたくなった。


「言いたいことはそれだけか? とっとと退けよ」

「な……なんだとお前!」

「……昨日から生意気だぞ乙田!」


 喧嘩をするつもりはない。

 なので退けと言ったのだが癪に触ったらしい……でもビビッてるというか、やはりこの二人は言い返されることに慣れていないらしい。

 そこで二人は俺から視線を逸らし、二階堂へと目を向けた。

 俺相手だと分が悪いと判断して二階堂を標的にしたんだろうが、それを俺が許すわけもない。


「言いたいことがあるなら全部俺に言えよ」

「っ……乙田君?」


 二階堂の肩に手を置きながらそう言った。

 正直こうすることに恥ずかしさはあったものの、少なくとも二階堂に何かしたら俺が黙ってないぞと知らしめるための行為だ。


「山田、それから田中も。お前ら、お互いに友達なのか?」

「は? いきなり何を……」

「そりゃ友達だろうが……それ以外ねえだろ」

「それと同じことだ。二階堂は俺にとって大事な友達になった……だからこうして守ってる」


 時に、ハッキリ強く言葉を伝えれば相手の気を削ぐことは可能だ。

 それが今回はしっかりと発揮してくれたらしく、山田と田中はこれ以上何かを言う気はなくなったらしい。


「二階堂、行くぞ」

「う、うん……!」


 そうして無事に教室を出た後、下駄箱まで二階堂は何も言わなかった。


「その……ごめんな二階堂、いきなり肩触って」

「え? あぁううん……謝ることじゃないよ。黙ってたのはそれが嫌だったんじゃなくて、ちょっと不思議な気持ちに浸ってただけだから」

「そうか……じゃあ良いか」

「うん……ありがと、庇ってくれて」

「あれくらい当然だっての、友達だしな」


 なんて、かっこつけたかったのもあるけどな。

 まあこれに関しては前世がある分度胸が備わっているというか、それも大いに関係しているんだろう。

 今の俺からすれば、二階堂を含めて山田や田中も年下だからな。

 それから二階堂に案内され、辿り着いた場所はマンション――それもかなりの高級マンションだった。


「す、すげえ……」

「行くよ」


 圧倒される俺とは正反対に、慣れた様子で二階堂は俺の手を引いた。

 流されるがままに案内された一室……先に入った二階堂に続くように中へと入った。


「ただいま~」

「お邪魔します……!」


 緊張の声音は、二階堂にも伝わったようだ。

 クスクスと彼女は笑い、相変わらず手を引いたまま俺を案内する。


「そんなに緊張するの? 女性に慣れてる様子だったし、これで緊張するとは思わなかったけど」

「いや……こうして家に来るのは初めてなんだよ」

「……ふ~ん? 初めてなんだ?」

「まあな……女性というより、友達の家が初めてだよ」


 この世界ではな。


「そっか……そっかそっかぁ♪」


 嬉しそう……だな。

 さて、そうして二階堂に招かれたのは彼女の自室……紛れもない彼女がいつも生活している部屋だった。

 全体的な女の子だなって部屋で、ベッド上には大量のぬいぐるみが置かれており、当たり前だがゴミ一つ床に落ちていない。


「う~ん……やっぱりここに帰ってくると落ち着くなぁ」


 ようやく手を離してくれた二階堂は、大きく伸びをした。

 そしていきなり上着を脱ぎ始めたかと思えば、シャツのボタンも胸を抑え付けていたコルセットのようなものを外した。


「っ!?」


 思わずジッと見てしまったが、すぐ視線を逸らした。

 パチッと外れたかと思えばぷるるんと揺れた乳……てかマジでデカすぎるだろこれ!


「よしっ、これでおっけーっと」

「……おぉ」


 目の前に立つ二階堂は、完全に女の子へと変わっていた。

 結んでいた髪は解かれ、拘束から解放された巨乳がシャツを押し上げるその光景は、男の俺にとって非常に目に毒ではあるものの……悔しいが、ずっと見ていたい光景だ。


「ほら、座ろうよ」

「……分かった」


 二階堂の隣に腰を下ろし、何とも言えない時間を過ごす。

 いざこういう場面になると何を言って良いのか分からないからだが、隣の二階堂はとにかく微笑んでいた。

 チラッと視線が絡み合えば、二階堂は少し距離を詰めてまた微笑んだ。


「そんなに楽しい?」

「そりゃ楽しいよ。だって放課後……こうやって完全なプライベートを友達と過ごせるなんて思わなかったから。確かに高校生になる前で誰かと放課後一緒に居た時間がなかったわけじゃないけど、でも初めてだよ――こうやって肩の力を抜いて、一緒に居たい友達が傍に居るのはね」

「……随分と信頼してくれてるんだな」

「すっごくしてる。異性の友達というのもあると思うけど、強く意識してるのは確かだよ」


 そこまで言った二階堂は、こんな提案をしてきた。


「ねえ、私の肩に手を置いてくれない? ほら、学校で私を庇ってくれた時みたいに」

「え? あぁ……分かった」


 何その提案……とは思いつつ、スッと肩に手を置いた。

 上着の上よりも温かい……そりゃ当然のことで、布一枚しか間にないから二階堂の温もりは良く伝わってくる。


「こうされた時、凄く良いなって思ったんだ……今まで誰かに少しでも触れられたらビクッとしたけど、乙田君のはそれがなかった。たぶん、乙田君は絶対に私を傷付けないって確信があったからかな」

「……そっか」

「私、乙田君に触れられるの好きかも」


 ……この子、俺を惚れさせようとしてる?

 いやまあこんな美人にこうやって触れているのはもちろん、部屋に招かれた時点で惚れちゃいそうだけどさ!


「それでね……これはどうなのかなって」

「っ!?」


 上目遣いの後、二階堂は体を寄せてきた。

 俺の体に体重をかけるようにくっ付いてきた彼女に、俺の方がビクッと驚くように体を震わせた。

 何だ……何なんだこの状況は!


「うん……やっぱり落ち着く……こうするのも好きかも」

「そ、そうなんだ……」

「次はそうだな……こう!」

「っ!?!?」


 今度は正面から抱き着いてきただと……!?

 普通ならあり得ないようなこのやり取り……やっぱりこれも二階堂が異性との接し方に疎いせいだ。

 でもその指摘は出来ねえ……出来ないじゃなくてしたくない。

 だって俺も今この状況を嬉しいと思って楽しんでんだから!


「乙田君……って、こうして家にまで招くほど仲良くなったのにさ。苗字呼びは少し違くない? 名前で呼び合おうよ」

「あ、はい」

「良いの!? じゃあ……夜市君」

「……莉緒さん?」


 名前を呼んだ瞬間、にへらと二階堂……莉緒さんはニヤけた。


「? ……??」

「ど、どうした?」


 しかし、莉緒さんはいきなり目を丸くした。

 そのままお腹に手を当てたのだが、どうやら腹痛というわけではないようだけど……本当にどうしたんだ?


「……呼び捨て」

「え?」

「呼び捨てが良い」

「……莉緒?」


 言われたように、遠慮がちではあったが名前で呼んだ。

 そしてまた莉緒は頬を緩め、そしてガシッと肩を掴まれこう言われた。


「……もうずっとそれで良い」

「お、おう」

「名前呼びなら学校でもおかしくない……もうずっとそれでね」

「わ、分かった」


 莉緒さん……莉緒の圧に負け、こうして俺は呼び捨ての権利もらうのだった。

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男女比のおかしい世界で、ヤンデレ女子に愛されてしまった件 みょん @tsukasa1992

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