くすぶる後悔
ウロノ
大きな後悔小さな後悔
「すごいッス!ヒーローじゃないッスか!」
「いいえ。僕は胸に大きな後悔を
くすぶらせて死んでいった有象無象の1人ですよ」
ピーという機械音が病室に鳴り響いた
妻の夢叶(ゆめか)は最後まで
どこか儚く遠くの空を見ていた
そして目を閉じ口角を上げ永久の眠りについた
その安らかな微笑みを見て
やっぱり僕じゃダメだったと痛感した
葬式が終わり一段落ついた頃
妙に広く感じる家で
妻の遺品整理をしていた
妻のベッド横のタンスを開けてみると
古びた新聞紙があった
内容はカップル通り魔殺人事件の話だ
それと年季が入った箱を見つけた
中を開けてみると
新品同様のチェーンネックレスが入っていた
結婚したての頃に僕にくれようとしていたものだ
「僕には似合わないから」なんて
言い訳をつけて断ったんだっけ
またしまって眠らせるのももったいないし
持ち主もとっくにいなくなったわけだし
つけてみることにした
そして鏡の前に立った
じじいにネックレス、、、似合うはずもなく
新しいことわざができてしまった
でもつけていると不思議と寂しい気持ちが薄れた
そうこうしているうちに時計の針が10時を回った
早寝早起きが習慣づいたじじいにとっては
由々しき事態である
箱を枕元に置いて
急いで寝支度をして
ネックレスを着けたまま眠りについた
約55年間の結婚生活が終わった
肩の荷が下りたような思いが心を巡る
妻はいつもキレイな笑みを向けてくれた
靴下脱ぎっぱにしても有無も言わず片付けてくれるし
寝起きがド悪い僕を何度も何度も
優しく起こしてくれた
本当に“いい”妻だった
「・・ぉ……ろ…」
「じ…・・き……」
遠くに人の声がする……
すごく懐かしいような声が
耳をそっとなでるように入ってくる
「……!……!!!」
いや?耳を突き刺すような……
「尽(じん)!何回言ったらわかるの?起きなさい!!」
布団が宙を舞い、背中に大きな赤い手形がついた
「いってぇ……手加減してくれよ母ちゃん」
母ちゃん?僕は80のじじいで、えーと
「何ボサっとしてんの!早く顔洗って来なさい!」
今度は胸部に大きな赤い手形がついた
背中に胸部、、朝ご飯はサンドイッチかな
促されるがまま洗面台に向かった
そして鏡の前に立った
イケメンにネックレス、、、似合ってんな…
若返ってるな…脳の処理がまだ追いつかないが
とりあえずやっぱりかっこいいな
「鏡の前に立って何してるの?早くしなさい!」
「いやー僕のイケてる顔面と
このネックレスの相性凄くいいなって思ってね…」
母ちゃんはため息をついて僕の首根っこを掴んだ
体感的に季節は夏だった。そのためかな
プールで溺れないように訓練をしてくれたみたいだ
冷たい水が顔面の皮膚を強ばらせる
目覚めた脳から懐かしい感情が湧いてくる
「はい、顔拭いて!おはようございまーす!
はい、ネックレスなんて付けてないね
また寝ぼけちゃってもう…」
「高校3年生にもなって
朝、親に顔洗ってもらうなんて恥ずかしいわよ!」
水責めの間違いでは?
と喉まで出た言葉を保身のために呑み込んだ
老い先短い80のじじいが青春代表の高校生に
逆戻りしたようだ、、なんでかなと思いながら
身支度をしているとベッド横に
見覚えのある箱があった…開けてよく見ると
1枚の紙が箱の上についていた
「巻き戻れ」と書かれていた
原因は妻の置き土産のようだ
ネックレスを外そうと思ったけど外れなかった
しかも母ちゃんの言動的に僕以外には
見えてないのかもしれない
まだ色々考えたいことはあるが
今はとりあえず朝ごはんだ
食卓に座ると父ちゃんが眠たそうに
サンドイッチを先に頬張っていた
そういえば寝起きの悪さはこの人譲りだったな
もう2度と見れないだろうなと思っていた風景が
今、目の前に広がっている
ガミガミとうるさいが芯がある優しさを持つ母ちゃん
家ではだらんとしてるが仕事の時はかっこよくて
家族のことを1番に思ってくれてる父ちゃん
この2人と食卓を囲む幸せを
当たり前だと思っていた僕
サンドイッチの匂い、噛む感触、味
これらが現実だよって伝えてきてくれる
お腹が懐かしさで膨れてしまう
「ごちそうさま、いってきます」
「はーい気をつけて行ってらっしゃい〜
あなたも早くしなさい!」
久々の幸せは老いた心にしみ渡りすぎて
心筋梗塞を起こしてしまいそうだ
目頭のピクピクを必死に抑えて
上を向いて懐かしい通学路を進んでいった
学校の校門前に着いた
何もやましいことはない
ボクハコウコウセイ
中身が80のね
中身のせいでやはり高校に入るのは
少しためらってしまう
高鳴る心臓を叩き、歯を食いしばって向かおう!
何も怖くない!そうして進もうと覚悟を決めた時に
肩に巨石が落ちるように手を強く振り落とされた
身長が少し縮んだ気がする
なぜ僕の周りの人は力加減が下手くそなのだろう
「おっはーよっ!!じん!」
こういうことをするのは恐らく勇次(ゆうじ)だろう
まさかこいつが生涯の友になるなんて
高校生の時は思いもしなかっただろう
「いってて…おはよう、勇次、久しぶりだな
もう少し手加減してくれよ〜」
「昨日ぶりだぞ?」
「あ〜そうだった、最近腰の調子はどうだ?
お医者さんに気をつけるよう言われてんだろ?」
「いや?どこも痛くねぇよ?俺」
「あ〜いやなんでもない、、」
「今日の尽、なんか変だぞ」
記憶が混ざってしまう
それと高校生に対して何を話せばいいんだ……
じじい同士なら体の調子や酒のつまみの
話をすれば結構盛り上がるのに…
「その〜勇次さんご趣味は……」
「俺のか?なんかよそよそしいなwそういうノリか?
そうだな…体動かすの好きだぞ!」
「おぉ!いいですね!どういうスポーツが……」
男子高校生同士の会話には1mmも見えないが
何とか教室まで会話を途絶えさせないようにした
「おはよう。尽」
約55年近くで聞き続けた声が耳に響く
「おう!おはよう!」
キリッとした目元、背中まで伸びた艶のある黒髪
極寒の荒野に凛と咲く花のような気品
久々に見た妻、いや幼馴染の姿に
僕は不意に胸が高鳴ってしまう
これが動揺なのか恋なのかはよくわからない
ただ今はこの顔面を拝んでおこうと思う
「え〜なになに珍しいね!男の子に話しかけるの
え〜そういう感じ〜夢叶コノコノ!」
夢叶の友達らしき人がそう野次を飛ばす
いいぞ!もっとやれ!
「いや、ちがう。尽とはただの幼馴染だよ。」
久々に言われた…高校時代はいつも言われてたなぁ
そしていつも俺はムスッとしていたなぁ
もう中身80だしそんな些細なこと気にしないがね
「あんな朝寝起きの悪いズボラを恋愛対象とか
無理無理。手のかかる弟みたいなものよ」
おっと夢叶さん僕の心の傷を抉ることを
しないでもらいたいねぇ
「誰が弟じゃ!頼もしいお兄様のまちがいでは?」
「あんたのような兄なら恥ずかしくて
街も歩けないわ!」
「なんだとぉ!」
少し子供っぽいことをしてしまった…
年齢相応だけれど、それはむず痒くて
ずっとやりたかったことに近かった
授業は退屈だった。なんせ1回習ったけど
まるっきり忘れて、全部なんかしらの暗号に
聞こえるからだ!もちろんぐっすりと寝た
「おーい尽!着替えに行こうぜ」
眠たい目を擦りながら
勇次の服の端をつかんでついて行った
今日の体育は短距離走のようだ
「位置について、よーい、ドン」
急に全力疾走できるかなと不安だったが
いらぬ心配のようだ
体が脳を走り方を教えるように
50メートルを駆けっていった
「6,4秒!!すごいな尽!」
思ったよりも速かった
若い体って体力が無尽蔵で急に全力出しても
あまり支障がないことに脳が驚きつつ
こういう自分の凄さを気軽に感じれるこの感覚
なんとも言えないうれしさが込み上げてくる
どうだ?という自慢げの顔を夢叶に向けたが
彼女は想い人に夢中のようだ
その後は特に何も無く
なんとか最後の高校生としての日常をやり遂げた
帰り際、夢叶に呼び止められた
「明日、買い物に付き合ってくれない?」
「明後日じゃだめか?」
ダメ元で聞いてみた
「無理そう?なら大丈夫よ」
「いや、明日でいいよ!行こう」
ここで承諾したところで未来は変わらない
なら少し満喫させてもらってもいいよな
「ありがとう!」
いつものキレイな笑みだが少し乙女心が混じっていて
すごく輝いてみえた
土曜日午前9時集合
のはずだよな?
集合場所にはそれらしい人影なかった
30分が過ぎてようやくやってきた
夏を感じさせる白のワンピースと
麦わら帽子を身につけ、少し息を切らしながら…
というような感じだったらなぁ
遅刻したという事実なんて脳内で抹消できたのに
中学校の頃のジャージを身につけ
くせ毛を少し整えてポニテにし
堂々と歩いてきた
これでも人目を引くんだから美人はすごい
「遅れてすみません…」
「ジュース奢りな」
「はい…」
そして30分遅れて近所のショピングモールに向かった
「今日はどうして誘ったの?」
イタズラな笑みであえて聞いてみた
「その〜…お父さんの、プレゼント選び」
「彼氏さんじゃなくて?」
僕の思いがけない一言に彼女は思わず立ち止まって
「なんで知ってるの?ってかいつから?」
「何年幼馴染やってるって思ってんだよw
それで?いつから付き合ってたの?」
「言わなきゃダメ?」
「幼馴染、いやプレゼント選びに
協力する人の知る権利ってやつさ!」
きっかけは些細なものだったと思う
「今回も負けた」
期末テストの成績優秀者表をみてそう呟いた
私は今回も全力を尽くして負けた
そして今回はムキなって勉強しようと
図書室へ訪れた
彼がいた。私を何度も負かせた男 星野 空(ほしのそら)
私は絶対彼より勉強してやるという意気で
彼の目の前の席に座った
あっという間に閉館時間の19時になった
もちろん私と彼は最後までいた
お互い片付けてる最中に私は問いかけた
「なんでそんなに勉強頑張れるの?」
「ぼく?ですか?そうですね…夢があるからかな」
「夢?」
「そう。ぼくは宇宙飛行士になりたいんだ」
この時私と彼とでは目指してるところ、
見ているものが違うことを思い知らされた。
夢を大きく語る人は塵のように沢山いる
夢の大きさと行動が比例している人には
今まで出会ってこなかった
彼のことを意識し始めたのはこの時からだろう
それから私は毎日彼と一緒に勉強するようになった
知れば知るほどだんだん心が惹かれていった
勉強や宇宙の話は無尽蔵に知ってるくせに
一般の生活常識を知らなかったり
オシャレには1mmも気を使ってなかったり
そんなところも愛おしく思える自分がいた
何回かデートも行った
慣れないオシャレをして
ネットで調べたような似合わない言葉を使っていたな
すごく器用だけど、それが行きすぎて不器用
そんな優しい彼から私に告白してきてくれた
夕日がキレイな丘の上で2人隣に並んだ時に
「夢叶さん…ぼくと付き合ってくだしぇい」
こういう穴場スポットを
頑張って器用に見つけてくれたのに
最後に噛んじゃう不器用さ
本当に愛おしい
「はい」
こうして私たちは結ばれたのだ
「っていう感じよ。満足?」
「あっあぁラブストーリーしてるね!」
「何言ってんのw」
初めて聞いた。話してる時の夢叶は
頬を染め、初めて語っていたからか少し
たどたどしかったがちゃんと星野くんへの
愛おしさが伝わって来た。
「もう、それよりほら服見に行こう!」
夢叶の明るい声に引かれて言ってみると
着いた先はレディース服屋の前だった
あっこれ長くなるやつや
「ねぇこれどっちの方が似合うと思う?」
出たーー地獄の質問
「うーむどっちも可愛いけど右の方かな?」
さぁどうだ!どちらも可愛いよという
予防線を貼りつつ、ちゃんと質問にも答えたぞ!
「ふーん…これお願いします!」
左の方を買ったようだ
俺に聞く必要あったか?とわだかまりだけが残った
「夢叶さんやい、プレゼントはよ買おうぜ」
一縷の望みにかけて急かしてみた
「えぇ…今すっごくまよってて…
後、心の準備も必要じゃん?
1周年のプレゼントだし、
だから今ショピング気持ちを落ち着かせてるの!」
母になった女の人は強くなるように
乙女になった女の子はとてつもなくめんどくせぇ
「とりあえずどういうものを送りたいの?」
「アクセサリー系かな…」
「了解!行こうか!」
色々と喚いていたが無視して
アクセサリー屋さんまで引きずった
「わぁすごい綺麗…」
目を輝かせながら一つ一つ丁寧に見ていた
その姿が不意に妻の夢叶と重なる
「綺麗な指輪たくさんだね」
キレイな笑みをしてそれらを眺めていた
そうして僕たちは左手の薬指を光らせて帰路に着いた
「なぁ僕のことどう思ってる?」
「どうしたの急に?尊敬してるし好きよ」
「そっか」
「ねぇ尽ってば!」
夢叶の声でふと我に帰る
「おう!どうした!」
「このネックレスとかどうかな…」
夢叶が不安そうにこちらを見ている
本当に面白いくらい乙女している
「いや、こっちのブレスレットとかどうだ?
ほらカップルお揃いもあるし!
こういうの高校生のうちしか出来ないぞ!」
「それもそうね…てか尽なんかおじさん臭い
言葉遣いだねw」
なんせ中身が80だからね
「そうかいw?」
僕ら並んで帰路に着く
「ねぇ尽、喜んでもらえるかな…」
「大丈夫だ!好きな子からのプレゼントで
喜ばないやつはいないさ」
そう言いながらそっと首をなぞる
「私、明日頑張ってくる!」
クールだった面影はどこへやら
「おう!頑張れ!」
そうして僕たちは各々の家へと帰った
「ただいま〜」
「おかえり〜それで!デートどうだった?」
母ちゃんが興味津々でこちらを見つめている
「どうもこうもないよ、
夢叶の彼氏さんへのプレゼント選びだったから」
「えぇーーー!!夢叶ちゃんに
ボーイフレンドいたの!?」
母ちゃんの声が家中に響く
その後も根掘り葉掘り聞かれた
今日精神的に疲れたというのに
その後父ちゃんが帰ってきて
夕飯の時に母ちゃんから今日のことを聞いて
「逃した魚は大きいぞ〜」
とニヤニヤしながら言って来た
「もう!いいだろ!
夢叶とは元々そういう関係じゃなかったし!」
あまりにも鬱陶しかったので思わず言ってしまった
あ〜この後めんどくさいやつだ
「またまた〜母ちゃん覚えてるんだから!
あんたがまだ幼稚園児の頃にね
『ぼくはしょうらい!
ゆめかちゃんとケッコンする』ってね!まぁ素敵!」
「花の指輪とか作ってたなぁ!」
「もう父ちゃんまでからかうなよ〜」
「ははw悪い悪い!今度家族で
憂さ晴らしでもしような!
高い山行って叫ぶか!」
「いいじゃない!行こう行こう!
母ちゃん叫ぶのは得意だから!」
僕の家族はからかったあとの
アフターケアがうまいなって思いながら
「行けたら行くわ」とだけ言っといた
それ来ないやつって両親にツッコまれた
ずっとこの暮らしが続けばいいな
自分の部屋に戻ってベッドに思いっきりダイブした
夢叶の心の底の笑顔は見たことあるが
あんな乙女な顔もできたんだなって
今日のことを振り返りながら
2日間付けっぱなしの僕のネックレスを触った
そのまま睡魔に飲まれていった
次の日7月7日17時
僕は1人で繁華街をぶらついていた
夢叶と星野くんがお揃いのブレスレットをつけて
手を繋いで街を歩いていた。
夢叶の耳に光るイヤリング
恐らく星野くんが送ったものだろう
あんなにも嬉しそうな顔をしちゃって
本当に悔しいな…
「一生大切にし己の全てをかけて幸せにします!
どうか僕と結婚してください」
ネックレスによって過去に遡る前、僕は夢叶に
社会人三年目にそうプロポーズをした
夢叶は一瞬少し不安な表情をしたが
すぐにキレイな笑みを作って応えてくれた
僕は彼女が喜ぶこと、好きなこと自分のできる
精一杯を彼女にあげた
だけど彼女はその度に
「私なんかのためにそんなことまでしなくていいよ」と
僕は自分の一生を使えば
きっと彼女をまた心の底から笑わせられると
高を括っていたのかもしれない
僕が尽くせば尽くすほど
彼女は僕にどんどん返そうとしてこようとする
僕は彼女の心というコップに
温かい水を注ぐことが出来る
ただ壊れてしまったコップには
何も出来なかった
最初は一緒に居れればいいなと思っていた
しかし人間は強欲なものだ
その想いが膨らんで愛を囁いて欲しくなった
「僕のことどう思う」なんて聞いたりして
すると彼女の口から好き、尊敬してる、
大切にしてくれてありがとうと言ってくれた
愛してるとも言ってくれた
言う前に毎回少しつっかえているがね
それでもやはり「愛おしい」は言ってくれなかった
なぜかは昨日のショピングでわかったよ
それが彼女にとっての最上級の愛の言葉だったから
やっぱり僕じゃダメだったと痛感した
夢叶と星野くんが歩いている先に
もう夏だっていうのにフードを深く被った男が現れた
あれがターゲットのようだ
本当に若い体っていいね
全力疾走でターゲットに向かっていく
「夢叶!星野くん!夢叶!星野くん!夢叶!」
人混みで声があまり響かないが
夢叶が僕に気づいてキョトンとした顔で
「なんでいるの」とでも言いたげな雰囲気だ
それが僕に見せる最後の顔でいいのかい?
夢叶の横を走り抜けて
刃物を取り出したてのターゲットの手を掴んだ
確か新聞紙では犯人の男は
格闘技経験者って書いてあったっけな…
「夢叶!逃げろ!」
必死に手に力を込めながら
何とか振り絞った声が伝わったようだ
星野くんが夢叶を連れて離れてくれた
ほっと安心したのも束の間
ターゲットの左フックを顔面に喰らい
そして刃物を突き立て
僕の胸骨をものともせずに突き刺した
長い1秒がすぎた
僕の心臓は風穴を開けられた
意識が遠のく
犯人は周りの大人に取り押さえられたようだ
かすかに夢叶の声が聞こえる
「星野…くん…夢叶を…たの…む」
「夢叶…ありがとう……しあわ…せ…に…なれよ…」
そう幸せになってくれ
僕は君を幸せに出来なかった
君が愛しの星野くんを失ったから
君に恋だの愛だの教えた人が居なくなったから
まだ繊細でか弱い女の子の心にトラウマを
植え付けるのには十分だった
だけど今回は違う
君に「愛おしい」という感情を抱かせた人がいるから
小さい頃から一緒にいた男の子の死なんて
すぐに立ち直れるさ
そして星野くんと幸せに成り上がれ
君はよく空を見上げて星野くんを探してたね
今度は年に1回くらいでいい
僕のことも探してよ
そして星野くんに悪いことされたらいうだぞ!
なんちゃって
この行為は僕の単なる自己満やエゴかもしれない
星野くんにもすごく負担になるし
夢叶の幸せを勝手に定義づけてるし
でもきっと彼女らならうまくやれる
もし最後に1つわがままを言えるなら
やっぱり心の底から偽りなく
夢叶の顔面をぐしゃぐしゃになるくらい
笑わせたかったな
「どうもです!天使ッス!
早速履歴書見ていきますね…おお!
通り魔からカップルを庇って死んだんッスか?」
「すごいッス!ヒーローじゃないッスか!」
「いいえ、僕は酷いやつですよ
想い人の心の隅に小さな後悔をくすぶらせて
そして僕は胸に大きな後悔を
くすぶらせて死んでいった有象無象の1人ですよ」
くすぶる後悔 ウロノ @sinsinurono
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